姫り眠

古坂京子

プロローグ

長い夏休みが終わってはや1ヶ月が過ぎ、明日から10月が始まる。

とはいえまだまだ残暑は厳しく、夕方になっても気温は昼間とほぼ変わらず。ムッとした熱が籠った放課後の教室で、今日日直だった津堂灯つどうともるは、額に滲む汗を手の甲で拭いながら学級日誌を書いていた。

日付は9月30日月曜日。天気は晴れ時々曇りで、記入者の欄に自分の名前。それから次に欠席者の名前を書こうとした所で、津堂はふと手を止めた。 津堂のクラスには入院している生徒がいる。名前は篠山雪華しのやませつか。それ以外は知らない。何とか思い出そうとしても、津堂の頭には彼女の顔はおろか容姿も声も、何一つ記憶されていないのだ。


「篠山っていつから休んでたっけ?」


ぺらり、ぺらりと捲って日誌を遡ってみると、4月の半ばから欠席者の欄に篠山の名前がある。つまり篠山は入学してすぐ休学となった訳で、どうりで覚えていないはずだと津堂は1人納得した。


「元気にしてるのかな・・・」


ポツリと呟くと、津堂は止まっていた手を動かして篠山の名前を欠席者の欄に記入した。

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