第6話 甘栗くんの学校
1時間目終了後ーーー
ただ寝てただけだが早速つまんなくなった俺は、
タバコを吸いに教室を出ようと席を外そうとした。
【甘栗くん、ちょっといいかな?】
クラスの男子2人に声を掛けられた。
……たしかクラス委員長の鳥羽と、クラスの中心によくいる伏見か。
『あ?なんの用だ?』
やべ、クセで睨みつけちまった。
少しタジタジになり苦笑する鳥羽と伏見。
「甘栗くん教室に全然いないから話せなかったんだけど、実は明日隣のC組とクラス交流でカラオケ行くことになっててーー…。」
鳥羽がバツ悪そうに頬を掻きながら話す。
「そーそー!せっかくだからクラスみんな仲良くしたいじゃん??俺らまだそういう集まり入学してからしてなかったからさ!どーせなら隣のC組とも仲良くなっちゃおうぜー!!って感じでこの会企画したんだけどさ〜。やっぱ甘栗くんも行くっしょ!?」
伏見馴れ馴れしいなコイツ。
C組ってことは轟のクラスか。
あいつも参加すんのか。
ていうかカラオケか…
正直………
めっっっっちゃくちゃ行きたい!!!!
実は俺はカラオケはめちゃくちゃ好きだ。
田舎に住んでいた時は、よく地元に一件しかないカラオケによくダチと深夜までカラオケしていた。
こっちに来てからはカラオケなんてやるダチもいなくて行けずじまいだった。
だからカラオケはすげぇ行きてぇ。
……だが。
『行かねぇ。』
俺みてぇなのがいてもシラケるだけだ。
いい子ちゃんはいい子ちゃん同士仲良くしていた方がいい。
「……そうか…。」
わかってはいたみたいな顔で鳥羽が残念そうに返事する。
「えーーなんでよーーー!甘栗くんも行こうぜーカラオケー。」
お前は空気読めねぇな伏見。
「甘栗くんもし気が変わったら待ってるからいつでも言ってね…!」
あーーこういうのがクラス委員長ってやつか。
なるほどね。いかにも人が良い奴って感じだ。
『あーー…。』
そう言って俺は教室を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
いつも通り。
グラウンド倉庫裏で俺はタバコを吸っている。
やっぱこの場所が1番落ち着くわ。
こんなに授業ふけるなら帰ればいいって話だが。
お袋がうるせぇから家は家で落ち着かねぇ。
「授業サボってタバコとは…いいご身分だね少年。」
長い髪の毛をゆるく巻き、化粧は素材を殺さず時間をかけてやっていそうな。
先公が立っていた……
終わったな………俺。
先公は、安善 瑠璃子あんぜんるりこ
倫理の教師で轟のクラス、C組の担任。
可愛くて天然で生徒に人気があるらしく、いつも昼休みとかは生徒に囲まれている。らしい。
これはさすがに今日で退学か…。
「…別に他の教師に言うつもりはないから安心したまえ。
どうせお前、そのうち学校辞めるだろ。」
そう言うと安善は電子タバコをセットして俺の横で吸い出す。
ぷはーーーっっと勢いよくタバコを吹かした。
さながらその姿は人生に疲れたサラリーマンみたいだった。
なんで俺が退学しようとしてんのわかんだよ。
「…なんで退学しようとしてんのかわかるのかって目だな。
お前みたいに浮きに浮きまくっていたら学校つまんないだろ…わかるさ。倫理の先生だからね。」
………図星すぎてなんも言えねぇ。
『…いいのかよ先公がこんなとこでタバコ吸って。』
「無論ダメだぞ。昔と違って職員室に喫煙所がなくてな。学校で教師がタバコを吸うのは禁止されている。バレたらクビが飛ぶな。」
『へー、先公も大変なこって。』
「まあ、最悪クビが飛ぶって話だが。
それよりも私は普段可愛くて天然な先生キャラで売ってるからな。タバコはイメージ的に良くないのだよ。」
『イメージねぇ…アイドルみてぇだな。』
「そう…まさにアイドルだよ…。
新任教師の初めての就職で素を出せずキャラを作っていたら…気づいたら生徒からも周りの先生からも可愛くて天然な先生でキャラが固定されてしまってね…。「安善先生は可愛いからちょっと失敗しても許しちゃーーう♡」なんていうセリフに甘えて楽に仕事をしてきちまって今まさに自分で自分の首を絞めている状態で……生きるのって辛いよ。大人は。」
…なんか誰かさんとキャラ被るなこの先公。
「この時間が私が解放される時間よ…。」
電子タバコを吸いながら遠くを見つめるその目は……暗く濁っていた。
「お前もタバコ吸うなら紙タバコやめて電子タバコにしろよ。紙タバコだと匂いでバレるぞ。紙タバコ吸ってる俺格好良いって思うの許されるの高校生までだぞ。大学入ってそれだと痛いヤツって思われて大体裏で女子に悪口を言われる。
ああ、でももうすぐ学校辞めるのか。」
『うっ!うるせぇな!カッコつけて吸ってるわけじゃねーよ!!』
違ぇし。ずっと紙タバコだったから吸ってるだけだし?地元のコンビニに電子タバコ売ってなかったから買ってないだけだし?
ふーーーん。っと安善は返事した。
「あ、お前そういえば明日のクラス交流会参加するのか?うちのクラスのC組と合同でやるそうじゃないか。」
『行くわけねぇだろ…俺みてぇなの行ってもシラケるだけだろ。』
「…案外そうじゃないかもしれないぞ。お前が思ってる以上に周りはガキだ。人間の見方なんて一瞬で変わる。お前の行動1つでプラスにもマイナスにもなるもんだ。」
『…言ってる意味わかんねぇよ。』
「だろうな。ま、多感な時期ってことよ。
ーーこの場所は私のお気に入りスポットだからあんま独り占めしないでくれよ、少年。
あ、あとここで私がタバコを吸っていたことは内密に。……言うとお前の大事な息子が危ないと思え。」
そういって吸い終わったタバコの吸殻をタバコ箱の中に入れ安善は去っていった。
『変な先公…。』
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
昼休み、購買でパンを買い終わっていつもの場所で食おうと歩いていると…
城崎と双葉が前を通った。
どうやら図書館に向かうらしい。
なんとなく…なんとなくだが俺は2人の跡をつけちまった。
ほんっとーになんとなくだ。
俺は初めて入る図書館に少しドギマギしながら本棚の影に隠れて2人を見る。
昼休みで皆飯食ってんのか誰も図書館にこいつら以外の人はいなかった。
「今の体調はどう?双葉さん。」
「うん、今は平気。本当に昨日は城崎くんに迷惑かけちゃって…ごめんね…昨日の、その…あのことは忘れてね。」
あのことってなんだよ!!!!!????
めっっっちゃくちゃ気になる。
「あ…あ、うん…わかったよ。
…でもまたなんか困ったことがあったらなんでも言って。俺にできることがあれば手伝うから。」
あーーーよくある台詞。大体こういうこという男ってこれ言っとけば女落とせるって思ってる奴多いんだよな。男ならもうちょっと深みをもたせねぇと。
「城崎くん…わたし…わたし…。」
双葉が急に目をうるうるし、身体を震わせ城崎のシャツを軽くつまむ。
…やってんなこいつ。やってんな双葉。
ーー長年お袋から言い伝えられていたことがある。
男の服をつまむ女のボディタッチは意図的に男を仕留める合図だとーーーー…。
「…城崎くん、わたしクラスの女の子から嫌われてるみたいなの。」
そう言って涙を流す双葉。うーんあざとい。
このあざとさが女子に嫌われるんじゃないのか?
「っっえ?双葉が?なんで?」
「…その…昨日城崎くんに私倒れたから…おんぶして家まで送ってくれたじゃない?
…あ、あと…朝…一緒に城崎くんと登校したからそれ…クラスの子に見られたみたいで…。」
うっうっひっくひっくと双葉が泣く。
「うっうっ…轟さんと城崎がお似合いなのに…なんで私なんかといるのかって…トイレで…クラスの子が悪口言ってるの…聞いちゃって…。
わたし、そんなつもりじゃな…ないのに…轟くんと、城崎くんの邪魔してるって…言われてて…。」
双葉ーーーーーーーーーーーー!!!!
お前わざと城崎に言ってるだろ!!!!
あざとい!!なんてあざとい女なんだ双葉!!
あえて轟の名前を出すことで城崎が轟との関係を否定するのを待ち構えてるだろお前!!!
「…そいつら最低だな。
野乃亜とはそんなんじゃないよ!お互い家隣で家族みたいなもんだし…双葉さんが邪魔だなんて!!
俺も野乃亜もお互い恋愛感情なんてないから…!
いつもよく聞かれるけど本当に誤解だから…。」
これ…轟聞いてなくてよかったな…。
轟のこと完全否定じゃねーか城崎。
轟はお前に恋愛感情ありありだぞ城崎…。
…まじで轟いなくてよかったな。
いたら人格崩壊もんだぞ。
カタカタカタカタカタ
俺の背中側の本棚が揺れる。
……地震か??
………………………。
………………………。
ーーーー………後ろを振り返ると。
本棚のスキマから身体を震わす轟 野乃亜がいた……。
……………………。
……こいつどこまでもタイミング悪ぃのな。
…俺は轟と目が合う。
【助けて…】
そう懇願するような顔で俺を見てきた。
いや、この状況はどうにも…。
「……そうだ!!!双葉さん!明日、俺のクラスと、D組でクラス交流会やるんだけど来ない?
そこに野乃亜も俺もいるから、今は双葉さんのクラスは無理でも俺らのクラスから少しずつ誤解解こうよ。…野乃亜に頼んで、俺と野乃亜はなんでもないってみんなに伝えてさ。双葉さんはいい子だって。
少しずつわかってもらおうよ。
…友達もきっとできる。野乃亜なんて、あいつ、良い奴だから絶対双葉さんと仲良くなるよ。」
城崎いいいいいいいいいいいいい!!!!!
お前ええええええええええええ!!!!!!!!
C組とD組のクラス交流会に他クラスの女子混ぜるなんでそれこそ反感喰らうだろ!!!
轟を公開処刑させる気かこいつ!!!!!
「え…わたしも参加していいのかな…。私なんか…。…でも、轟さんと仲良くなれたら…嬉しいな…。」
双葉、お前わたしなんかっていいつつ参加する気だな。図々しい。あざとさ越えて図々しいにも程があるぞ双葉。そりゃお前女子に嫌われるわ。
石どころか岩投げられるぞお前。
「クラスのやつらみんな良い奴ばっかりだから、双葉さん参加しても誰も文句なんか言わないよ。
たとえなんかあったとしても俺がいるし。一緒にいこうよ、双葉さん。」
ーーーーもう焼かれろお前ら2人。
明日大ブーイングだぞ多分。
ーーーーー轟は…………。
……………死んでいた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「…あっ、甘栗くん。どうしたの?」
『…あのよ。鳥羽。』
【俺、明日のクラス交流会参加するわ】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます