第4話 轟ちゃんの好きな人
「野乃亜、いる?」
突然の城崎の訪問に顔色が変わる轟。
「はーい、いるよー。ちょっとまっててー。」
すげぇな轟 野乃亜。
さっきまで泣き叫んでいたとは思えない声色でまるで何事もなかったように対応する。
……まて
城崎が家の中に入ってくんのか??
まてまてまてまて。俺がいていい状況じゃねぇだろなんて説明すんだよ。
そう思って轟の顔を見たら、案の定俺と同じことを考えていたらしく目を見開き仏像のような顔をしていた。
「甘栗くん…。」
『わかってる。城崎が来たら気付かれないタイミングで帰る…』
「トイレの中にいてくれない?」
『は?』
「…美月が帰るまでトイレの中で待機できる?
今!!私!!美月と2人きりなんて無理だよぉ??!!どんな心境で会話しないといけないの?!君私ののカレー食べたよね?!カレーのお礼と思って見届けてくんない???どうせ女の子の作ったカレーなんて食べたことないでしょおおお?!?!」
あ、こいつまたディスりやがった。
女だから殴られないと思いやがって。
俺はぜってぇ女は殴んねぇと決めてるけど、こいつは殴っても許されるような気がした。
『…わかったよ。』
まぁカレー食わしてもらったし。美味かったし。
俺がトイレに入ると玄関に靴を隠す音がした。
『なんで俺がこんなことに…』
轟 野乃亜の横暴さは地元のヤンキーの先輩を思い出す。
俺が最強と呼ばれる下積み時代。夜中でも関係なくパシられたっけな。
ーーーそんな事を考えながら便座の上に座っていた。
「ごめんごめんお待たせ。」
ガチャ
玄関のドアを開ける音がする。城崎が入ってきたか。
「…なんか随分出るの遅かったな。なんかあったのか?」
「なんにもないよ〜ちょっとテーブルの上片付けてたから遅くなっちゃっただけ。どうしたの?」
完全に俺がいなかったようにサラサラと嘘を並べる轟。普段からやっていないとそんな演技できねぇぞ。
…相当普段から城崎に対して感情抑えてんのかもしれねぇな…。
にしては好き好き伝わるが。城崎には好き以外の感情ー…悲しいとかムカつくとか隠して生きてきたんかな…。なんとなくそう思った。
「美月…双葉さん大丈夫だった?」
お前からその話題振るのか轟ーーー!!!!
1番聞きたくない話題だろうに聞かねぇとおかしい気がするから聞いたんだろう。
轟の内心がどんな状態なのか、簡単に思い浮かんだ。
「…無事家まで送り届けたよ。あの子貧血頻繁になるらしくてさ。薬飲んだら少し落ち着いて、今は家で寝てるよ。その事で野乃亜に話そうと思って。」
城崎の声のトーンが少し低くなる。
城崎お前、双葉の家の中上がったんだな。
その言い方は双葉が寝るまでお前が隣にいたってことになるよな。
「あ!そうだったんだ!よかったぁ!心配してたんだよね…。家の中まで送りボホォゴボッゴボッあっごめんちょっとむせちゃった…双葉さんが無事でなによりだよー!」
轟…さすがに家の中まで上がったのはダメージ隠せなかったんだな…。
「そうだ!美月ご飯は食べたの?」
轟お前…俺をトイレに放置したまま城崎にメシを食わせる気か?
「……いや、双葉さんの家にご馳走になった。」
ああ、これは轟死んだな。
まあ俺と轟も城崎と双葉と似た状況ではあるんだが…。
あきらかに城崎と双葉では感情が違う。
「なーーんだ!そうだったの!お腹すかしてるんじゃないかと思ってたから安心したよ〜。」
轟、お前すげぇな。
ーていうかトイレが玄関すぐのせいで話が何もかも筒抜けで気まづい。どんな感情でいればいいんだ俺。
「それでさ、野乃亜。俺、明日から登下校双葉さんと行こうと思う。」
「え…」
あきらかに轟の声が、か細くなる、
「彼女さ、また貧血で倒れるかもしれないから心配でさ。ちょうど双葉さんの家も最寄り駅一緒だから。
…野乃亜、悪いんだけど明日からは俺の事迎えに来なくて大丈夫だから。」
すこし申し訳なさそうに城崎が言う。
これはもう…
「それって美月が……わかった!双葉さん心配だもんね!これで美月を迎えに行くのに朝私が早く起きなくてもいいのか〜!!美月朝私がいなくて起きれるの?」
それって美月がやらないといけないことなの?
多分轟はそれを言いかけたんだろう。
「…元々野乃亜がいなくても俺、朝起きれるから。」
城崎お前それ絶対言っちゃいけねぇことだぞ。
轟の気持ちを考えるとマジで城崎クズすぎるぞお前。
「彼女さ、図書委員一緒の時もドジばっかでさ。
引っ込み思案で…なんか…ほっとけないんだよ。」
それだけ伝えたかっただけだから、じゃあな。
と轟に伝えて城崎は帰っていった。
「…甘栗くん…もう出てきていいよ。」
『轟…お前よく我慢したな。』
城崎はハッキリとは口にしなかったがあいつの気持ちが誰に向いているかは会話の中で感じる状態だった。
また轟は泣き叫ぶなこりゃ…
あの轟の叫びを聞くことになるかと思ったが。
轟は玄関に座り込み、ポロポロと静かに泣いた。
「私…今まで美月に好きになってもらうために頑張ってきたんだけどさ。どこかで美月は私の横にこれからもいると思ってたんだけど。違ってたみたい。」
轟は俺の方を見て泣きながら微笑んだ。
「まさかぽっと出のブスに奪われるとは予想外だったなぁ…。」
『まぁ、まだ付き合ってないし…お前にも可能性あんじゃねぇの。1番近くにいるのはお前だろうし。』
俺なりの最大の励ましだったがこんなん轟には何の励ましにもならないだろう。
「どうだろう…」
そう言いながら轟は、城崎がいなくなった玄関のドアを見つめていた。
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「なんかごめんね、甘栗くん。色々迷惑かけちゃって。借りたTシャツ洗ってかえすね。」
本当だよ。と内心思ったが。
『別に、気にすんな。元気出せよ。』
「あのさ…甘栗くん。」
『あ?』
「甘栗くんっていつもあの場所…体育倉庫の裏にいるの?」
まあ、あそこぐらいしかタバコ吸ってても気付かれないとこねぇからな。
『…大体いるけど。』
「たまにしんどくなったら行ってもいいかなぁ。」
俺は轟に聞けなかったことを口にした。
俺自身どう思われているのか内心気にしていたのかもしれない。
『お前俺の事怖くねぇの?』
キョトンとした顔で轟は目を大きく見開いた。
「別に…怖くないけど。大体漫画とかでも学校にいる不良の子が実は優しかったとかよくあるじゃん?
私、入学した時から甘栗くん目立つから知ってたけど怖いと思ったことないよ。
ボソツ田舎のヤンキー感めっちゃあるなとは思うけど。リーゼントって絶滅してなかったんだって…。」
最後の一言は聞かなかったことにしてやる轟。
「でも甘栗くんと話してみてやっぱり優しい人でよかったって思ったよ。普通こんな目の前で吐かれて泣き叫ばれたら引くよ…。」
ーー…悪い轟、ドン引きはした。
「甘栗くん、悪いんだけど今日のことは…。」
『言うつもりもねぇし、そもそも言う相手いねーよ。』
クスッと轟が笑った。
「アハハ!だよね〜!!甘栗くん友達いないもん!!
そりゃ心配損か!!」
こいつハッキリ言いやがって。事実だが地元にはいるぞ。オイ。
『じゃ、俺帰るわ。』
「…また明日ね。甘栗くん。」
よくあるラブコメだったらここから恋が始まるのかもしれない。だがしかし。
『轟 野乃亜。アイツ一生懸命な奴なのはわかったが…。』
学園の美少女があんな気が狂った女とは…。
やっぱ都会の女ってビルの空気ばっか吸ってて頭のネジ外れてんのかもしんねぇ…。
『女って怖ぇ…。』
甘栗 慎吾は、轟 野乃亜に少し恐怖を感じていた。
一方、轟 野乃亜は…
「甘栗くんいい人だったなあ…。漫画だったら絶対好きになっちゃう展開なんだけど…。」
「リーゼント…キツイなぁ…。寄せ書きのTシャツ着るとか文化祭かよ。」
ーーーお互いそういう目では見れなさそうだーーー
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