最終話 第二章「タイムリミット」
狛枝とクルーエルが対峙した瞬間、三人が乗った列車は大きな汽笛を上げ、さらにその速度を上げた。
”まずいな、終点まで時間がないよ”
「分かってますよ!」
狛枝は距離を詰めようと走り出すが、クルーエルが懐から拳銃を取り出し、即座に発砲する。飛んでくる弾を狛枝は阿修羅赫醒で弾き返し、その一閃をクルーエルの顔面に叩きつける。
だが、触手のように変形した車体が狛枝を襲いかかる。狛枝はそれを蹴飛ばし、その反動で後方の車両へ着地する。
同時に、クルーエルの足元に倒れ込んでいた夢主の男を救出することに成功した。
「あれがドクター何とかの正体っすか?」
狛枝の一撃を受けたクルーエルがゆっくりと顔を上げる。
その瞬間、クルーエルの皮膚がべろりと剥がれ落ち、顔の内部が露わになる――。
そこにあったのは無数に回転する歯車と、赤く光る電球のような「瞳」だった。
”原作じゃ、ドクトル・クルーエルはただの人間だったはずだ”
芦谷は少し困惑した様子であった。
「じゃあ、この脚本家の妄想ってことですかね?」
狛枝は救った男に冷ややかな視線を向ける。
すると、夢主の男が怒りの表情で狛枝に掴みかかってきた。
「妄想だと!?私が何年も練りに練った設定を、そんなふうに言うのか!!」
狛枝はその怒りを受け止めるどころか、冷ややかな視線をさらに強める。
「おまえみたいな連中に、俺の作品をバカにする資格なんかないんだ!俺は貴様らのような消費者とは違う!俺は創造する側なんだ!俺の物語は完璧なんだ!」
そのとき、床に散らばっていた紙が風に乗って宙へ舞い上がり、列車の外へ飛んでいった。
「ああ、俺の作品が!」
男は必死に手を伸ばすが、紙は遠くへ消え去っていった。
「彼の作品は素晴らしいよ」
クルーエルが優しい口調で男に語りかける。
「並大抵の人間では考えつかない、独創的な才能だ」
だが、狛枝は冷たく反論する。
「それも、単なる妄想だろ?」
その言葉を聞いた瞬間、夢主の男の顔から血の気が引いていく。
「そんな素晴らしい作品なら、脚本に選ばれたはずだろ?でも、されなかった。それが現実だ」
狛枝の言葉を前に、男は泣き崩れた。
”狛枝くん、ちょっと言い過ぎじゃない?”
「いいじゃないですか。本当のことですし」
狛枝はそう言い切ると、阿修羅赫醒を構え、再びクルーエルへ向かって走り出す。
クルーエルは左腕をガトリング砲に変形させ、鉛玉の嵐を放つ。しかし、狛枝は屋根の上を巧みに動き回り、一気に距離を詰める。そして、阿修羅赫醒の一閃を放つ。だが、クルーエルは屋根を変形させ、それを防ごうとする。
“させるか!”
狛枝の間を割って、芦谷の
『
『転身、《
慧珠を中心に光が溢れ、一羽の鳶が現れる。
そして、羽ばたいたその翼から突風を発生させ、クルーエルの攻撃を阻む。
狛枝もその隙を逃さず、中咒を唱える。
『
『発動!《
狛枝は無数の斬撃をクルーエルに浴びせるが、クルーエルは倒れるどころか、余裕の表情で立っていた。
「それが貴方の決め手ですか?」
クルーエルが笑いながら振り向く。だが、狛枝もまたにやりと笑う。
「いや、てめえの負けだ!」
狛枝がそう宣言した瞬間、クルーエルの全身を紫の炎が包む。
「がああああああ!!!」
燃え盛る炎にのたうち回るクルーエル。
焼け焦げた皮膚の下から、黒い金属の骨格がむき出しになる。
狛枝は勝利を確信し、夢主の元へ戻る。
「さあ、こんなクソみたいな夢から醒めてもらうぜ」
そう言って男に手を伸ばした瞬間――。男は突然走り出し、燃え盛る炎の中へ飛び込んでいった。
「しまった!?」
狛枝が追いかけようとしたそのとき、列車が大きく揺れる。
すると、先頭車両がむくりと起き上がり、まるで人が体をひねるように狛枝たちの方へ向き直ったのだ。
”まずいな…
列車の中央にあった
その奥から、狂ったように笑うクルーエルの顔が覗かせていた――。
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