ANIMA
豆坂田
第1話 ANIMA
燃え盛る都市。
異形の怪物が空を飛んでいる。
曇天の空には雷が響きわたり、火の粉が降り注いでいた。
「母さん!」
炎の燃える音が響き、倒壊した建物が破壊音を響かせる中でもその声は異常なまでに響いていた。
「みんな――!」
助けてと小さな男の子が呼んでいる。しかし助けは来ない。滑空する化け物たちがこの都市を焦土に変え、たった一人を残して殺したからだ。
「……助けて」
響いていた声はそれを最後に消え去って、燃え盛る音と倒壊する建物の音が最後には残った。
◆
「カナリア隊長、第三部隊が現場に到着しました」
部下からの報告を受けたカナリアは、目の前に広がる荒廃した都市を見つめながら答えた。
「作戦通りに進めるよう伝えてくれ。この都市を取り戻すぞ」
カナリアの目の前には、破壊されたビルや潰れた住宅が広がっていた。商店街だった場所も全壊し、今は見る影もない。折れ曲がったビルが隣の建物を押し潰している。
曇天の空は暗く、雷鳴が響き、灰と火の粉が降り注いでいる。人が住んでいたとはとても思えない光景だが、事実、人はもう住んでいない。
崖の上から都市を見下ろしていたカナリアに、再び部下からの伝令が届く。
「第二部隊が機械型と接触、応援を要請しています」
「第四救護部隊を向かわせろ」
「了解」
『それ』がいつ、どこで現れたのかは不明だ。ただ一つ確かなのは、人類では太刀打ちできないほどの強大な力を持っているということ。特殊な能力があるわけではない。中にはそういう個体もいるのかもしれないが、ほとんどがただ単純に、巨大で力が強く、硬いだけだ。『それ』は特に人間に敵対するわけではないが、存在そのものが災害だ。『それ』らは仲間同士で争い、人間はその巻き添えを食っているに過ぎない。
一説では、故障した生物兵器の製造工場や都市の管理AIの故障が原因とされているが、その真相は不明だ。人々は都市から撤退し、世界各地に存在する小規模な『生存圏』で暮らしているため、原因を調べることもできない。
重要なのは、どう対抗するかだ。既存の兵器では『それ』に対抗できない。柔軟で頑丈な皮膚、厚い脂肪、硬い外骨格、または電磁装甲や力場装甲などの防御機構によって守られているため、生身の人間では到底、太刀打ちできない。加えて相手は何千万、何億といるのだ。とても対処しきれない。
事実、人類の生存圏は狭まり、広大な地球に住んでいた文明は、今や僅かな空間に限られている。常に曇天の空が滞在し、気象が荒ぶるこの世ではまだマシなのかもしれないが、人間の最盛を考えれば酷く落ちぶれたものだ。
しかし、人類は再び生存圏を広げ始めている。今まではただ蹂躙されるだけであったが、やがて『それ』と拮抗し、今は生存圏を奪い返すフェーズに入った。その立役者がカナリアたちであり、人類の最高戦力である防衛隊なのだ。
「
カナリアの背後で控えていた部隊員が身に付けていた強化服を起動する。それまでただの布ように柔らかく伸縮性のあった強化服が起動と共に硬化する。それと共に表面についた装甲や背中の背骨のように見える金属部品が僅かに青く光った。
部隊員達は立て掛けてあったり地面に置かれていた
一方でカナリアは強化服やその他の武装を持っていない。殺伐とした空気と、部下の装備、そして目の前に広がる光景を鑑みればそれは異常なことである。しかし誰もカナリアにそのことを指摘する者はいない。
彼女は強化服を着なくとも、武装を身に付けなくともそれで十分。彼女は特殊な人体改造手術を受けている。生身でありながら地面を
「まずは東地区から奪還するぞ」
「「「「「了解!」」」」」
部下から一斉に返事が返ってくる。
現在、カナリアの視界には一体の『それ』が映っていた。東地区の中で今現在確認できる中で最も巨大且つ気性が荒そうな個体だ。
「私があの個体を片付ける。お前らは別の個体を殲滅しろ」
「「「「「了解!」」」」」
先陣を切ったのはカナリアだ。崖から飛び降り、その個体に向かって一直線。カナリアの表情に恐怖や緊張と言ったものは感じられない。強大な『それ』を前に怯まない。
「今度は私達の番だ」
人々の生活圏を脅かし続け、何十億という人類を殺した。人類にとって最も忌むべき生命体。人間はそれを
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