聴こえないメロディー

Rotten flower

第1話

ピアノの鍵盤を押す。重たい鍵盤を力をこめて押しても音は聴こえない。

子供の頃に秀才と言われて躍起になって練習して、あの頃が今では馬鹿らしく思えてきた。

事故で聴力を失ったと知ったあのとき、目標を失った僕は暗い部屋のベッドに座りながら過去の自分をエゴサしている。外はそんな僕を煽るように晴れている。

何度も何度も死のうとして、でも緊張からか首に突き立てた鋭利なナイフを少し掠った程度で終わった。天井に繋いだ縄も椅子を倒すところで泣き始めた。結局、縄が重さに耐えきれず切れてしまったが。

ピアノの重たい鍵盤を押してみる。力を込めても音は聴こえない。

少しずつ無気力になる日々が増えてきた。疲れが溜まってきて。意識の無いように眠る。そんな日々が毎日のように続いた。

もう戻れないや。戻れなくていいか。

スマホを弄ることもなくなって気づかなかったがもう充電がないらしい。人とはもう何日もあっていないや。外は雨が降っていて傘を出して家の前を歩く幼馴染が見えた。こんな姿、見られたら恥ずかしいな。

誰かのドアを叩く音が聞こえる。久しぶりに立ち上がる、体が軽くなった気がする。

ピアノの重たい鍵盤を押す。体がピアノを貫通して前にバランスを崩した。

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