吐き気がするほど勉強したのに、俺が入学したのは超お嬢様学校な件。

諸星晃

一話・桜並木の中で君と。

暖かく澄んだ春のそよ風が吹く中俺、辻堂要は自転車で桜並木の中を走っていた。

貧乏な家庭に生まれた俺は中学に居る間、ありとあらゆる時間を犠牲にして勉強に励んだ。勿論、それは将来一流大学を出て高収入を得て、家族を養うためだ。だから勉強しすぎてキモがられたりボッチになっても全く苦じゃなかった。

そして、今日から夢にまで見た高校生活が始まる。


俺がそんな事を考えていると、ズラッと広がる桜並木の先に一人の明るい髪をした少女が笑みを浮かべて立っているのが見えた。


「あれはたしか、聖なんとか学園とか言うお嬢様学校の制服....」


自転車を止めてそんな事を呟いたのも束の間、俺の耳に背後から物騒な声が聞こえてくる。


「......動くな。動けば私達は直ちにお前を制圧するぞ、辻堂要。」


「せ、制圧?! は、はっ?!」


そう声を上げつつも、俺は突然の出来事となんとも言えない威圧感で身体を動かす事が出来なかった。


「良し、両手をあげてゆっくりこちらに振り向け」


「は、はい......」


俺は言われたまま、両手をあげてゆっくり声の主達の方へ振り返る。

振り返った俺はその光景を目にして思わず情けない声を漏らす。


「ひぃいいっ!!!」


「こちらとしても逃げられては困るのでな、これを見ればその気も失せるだろう?」


「そ、そ、それ、ほ、本物・・・・・・?!」


俺の前には数人の黒いサングラスに全身黒のスーツを見に纏ったいかにもな男女が立っている。そして彼らの手にはそれぞれ拳銃が握られていた。


いやいや、どうしてこうなった。俺、必死こいて勉強して今日からスーパー進学校の生徒になるはずだったよな? なのに、これって......いや、それは一旦置いておこう。


まずはこの場から生還しなければ。


「良し、では連行しろ。あまり手荒にはするなよ、依頼主からの指示だ」


「えっ? いや、ちょっと?!!」


俺がどうこの場から逃げ出そうかと考えようかという時、黒スーツの連中は既に俺の周りを取り囲んでいた。


俺は抵抗しようとしたが、大人の力で抑えつけられ、びくともせずそのまま近くに駐車してあったら黒塗りの高級車の中へあれよあれよと引きずられていく。


そして、後部座席の真ん中へがっちり抑えられた俺を乗せ、車は発進してしまった。


これ、もしかして拉致なのでは...いや、もしかしなくても拉致だろ!!!


頭の中に色々な事が流れ、俺は確信した。


もう、詰んでいるのだと。


どうしてこうなっているのか、どうして俺がこんな目に遭っているのかなど考えたところでどうにもならない。


俺に今あるのはそんな現実だけだった。


肩を落としながらふと窓の外を見る。

流れる桜景色の中にさっきこの連中達から声を掛けられる前に見た女の子であろう姿があった。


スゲェ可愛い子だったんだな。あぁ、本当なら今頃学校に着いて他の新入生達とお喋りしたり、もっと先には体育祭やら文化祭、そして卒業して大学に行ってその後一流企業に勤めて...


あんな可愛い子を奥さんに貰って幸せになりたかったのになぁ。


ごめんよ母さん、妹よ、弟も。兄ちゃんもうダメみたいだ.....

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