【自主企画参加】聴こえないメロディー

野口マッハ剛(ごう)

あなたを思うピアノのメロディー

 オレは今はピアノの発表会会場の最前列に座る。他の人々の会話がノイズのように聴こえる。まだ発表まで時間があるなぁ。オレは可愛い我が子の発表を待つ。


 可愛い我が子。小学一年生の息子には音楽教室に通わせている。ああ、何だかオレの方がソワソワしてくるなぁ。可愛い我が子の発表曲は、大きな古時計、である。家での息子は完璧にその曲を弾いていたのだ。失敗する可能性は低いだろう。


 そして、発表会が始まり、一番最初に可愛い我が子がステージに入る。我が子の表情は緊張している様子だ。ああ、何だかソワソワしてくる。親バカだなぁオレは。


 しぃんとした会場。可愛い我が子のピアノ発表が始まった。あれ? 何だか、ぎこちない演奏? オレは頭が真っ白になる。頑張れ、頑張るんだ!


 可愛い我が子のピアノを弾く手は途中で止まった。聴こえないメロディー、会場は空気を読んだような拍手に包まれた。ああ、よく頑張った。オレは気付けば立ち上がって拍手をしている。


♢♢♢


「パパ、上手く弾けなくて、ごめんなさい」


「何を言っているんだ! 立派だったよ!」


 控え室でオレと息子は話している。


 今にも泣きそうな可愛い我が子をギュッと優しく抱きしめる。


 よく頑張ったなぁ! 立派だったよ!


「パパ? 泣いてるの?」


 オレはシングルファザー。男手ひとつで可愛い我が子を育てている。聴こえないメロディー。オレにはちゃんと聴こえるからな!


「パパ、苦しい、ちょっと離して」


「あ、ああ、ごめん」


 息子は可愛い笑顔で、まるで天使のようだ。


 まぶしい太陽とも言えるだろう。


 オレは今日の我が子のピアノ発表を忘れないだろう。宝物のような可愛い我が子のピアノ発表会だった。


終わり

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