第2話 小さな女の子

 目を覚ますと、俺は知らない全裸の少女と寝ていた。見た目からして小学生くらいだろうか。驚きのあまり大声を出しそうになったが、とっさに抑えた。さて、どうしたものか…。

 昨晩のことを頑張って思い出すが、特に変なことはなかったはずだ。酔っ払ってもいないし、変な店に電話した覚えもない。というか俺にはそんな趣味はないはずだし、知り合いの家族というわけでもない。

 うぅ〜ん…迷い込んで来た、なんてことは流石にないだろうしなぁ…。大家さんに言うのもいいかもしれないが、誤解されてもイヤだからなぁ…。


「おーい、起きてますかー」


 かすれる程の小声で呼んでみるが、目を覚ます気配は一切なかった。熟睡しているな。

 とにかく、この状況を誰かに見られたりしたら俺はロリコンというレッテルを貼られて生きていかなければならなくなる。

——よし、隠すか。

 いや、そんなことしたらダメだ!余計にアブナイことになっちまう!


「うぅ〜ん…」


 少女が突然声をもらながらゴソゴソと動き出したため、俺は汗を流した。

 よかった…目が覚めたワケではないのか…。でも、顔が近すぎる気が…っ!

 気づけば俺は壁際まで追い詰められていた。これ以上はうしろに下がれない状態。背水の陣って感じでカッコいいかもしれない、なんてことを一瞬でも思ってしまった自分が情けなくてしかたない。

 …こうやって見ると結構可愛らしいな。

 白く柔らかそうな肌と綺麗な長い銀の髪、そして彼女の纏う雰囲気に気がつけば目を奪われてしまっていた。どことなく、これを知っているような…。

 そうやってしばらく眺めていると、彼女は目を覚まして俺に微笑んできた。


「おはようございます、ご主人様」


 とても違和感を覚えてしまうようなセリフ。


「ご主人様って、やっぱり俺はそういう店に頼んでいたのか…⁉︎」


 たしかにメイドは嫌いじゃない!嫌いじゃないのだが、こんなロリっ子を指名するはずがない!…ダメだ、なにも思い出せない…。これは相当酔っていたんだろうな…。


「…えっと、店舗名とか教えてもらってもいいかな。頼んだ覚えがなくて」

「むぅ、なにを言ってるんですか、ご主人様。まさか私をえっちなお店の人だと思ってるんですか」

「そりゃあそうだろ!そういう店以外に誰が俺のことをご主人様って呼ぶんだよッ!」

「そんなこと言うんだったら、私が誰なのか、その身体に教えてあげます」


 そんな危険なセリフを吐きながら彼女は顔を近づけてきて、俺の頬をぺろりと舐めてきた。

 満足気な表情をしているが、俺にはなにも理解できなかった。というか、逆に混乱してしまっているくらいだ。ただ、一つだけ分かったことがある。この人、淫乱だ……‼︎


「これで分かりましたか?ご主人様は鈍感なところがありますから、私は大変です…」

「急に舐めてきて、追加料金でも取るつもりですか⁉︎」

「どうして、さくらがそんなことしないといけないんですか!」

「それはさくらちゃんが——!あれ、そういえばさくらはどこに行ったんだ?一緒に寝てたはずなのに…」


 慌てて布団から出て、部屋中を探した。

机の下やレンジの中、風呂場やトイレなどくまなく探したが、どこにもさくらの姿はなかった。…おいおい、嘘だろ…?


「なぁ、さくら——じゃなくて、白い猫を知らないか⁉︎…こう、白くて綺麗な毛をしていて、ちょっと最近太ったのか丸くなっていたような…」

「太ってませんから‼︎」


 少女は突然大声を出し、それを否定した。そして大声をあげたと思うと、すぐさま彼女は頬を赤く染めながら顔を逸らした。


「…私はべつに太ってなんかいませんから」

「いや、キミのことじゃなくて、俺の飼ってる猫の話なんだ。たしかに同じ名前だけど…」

「…私があなたの飼ってる猫のさくらなんです!」


 そんなふざけた答えに目が点になった。

 寝ている間に飼い猫が人間になっているだなんて、どこのマンガの話なんだ。そんなのありえるワケないだろう。


「あのねぇ、そこまでして追加料金取りたいのか?そもそも俺はそんな店に頼んだ覚えはないし、もしあったとしても、これ以上は必要ないから。ほら、早く服を着て帰ってくれ」

「信じてくれないんですか⁉︎」

「当たり前だろ、そんなファンタジーみたいな話があるワケないからな」


 馬鹿げた発言に呆れていると、彼女はボソッと言ってはいけないものを口にした。


「——ドキドキ!巨乳家庭教師のお姉さんとアツい授業パート2、新星グラビアアイドル佐藤さとう千陽ちはる編」

「どうしてそれを知っている…⁉︎」


 俺が一番好きなグラビアアイドルの佐藤千陽ちゃんの新作で、俺が一昨日見ていたやつだ…‼︎家族や友人、もちろん同僚にさえ言っていないのにどうしてそんなこもを知っているんだ!


「もしかして、俺のPCの検索履歴を勝手に見たな⁉︎」

「いえ、ご主人様はいつも観終わったあとに消しているはずですよ?」

「む、確かにその通りだな…」


 それなら、どうして俺のお気に入りがバレているんだ?もしかして他の人たちにも既にバレてたりするのか…?


「ご主人様、ここで私から取引の提案です」

「…なんですか」


 少女の表情が真面目なものに変わり、俺は息をのんだ。まぁ、大した話ではないだろう。テキトーに対応して早く帰ってもらおう。


「……その趣味、バラして欲しくなければ私の話をちゃんと聞いてください」

「はい。喜んで聞かせていただきます」


 ――どんな時でも、例え相手が誰であろうとも、人の話はちゃんと聞くことが大切だと思うんだ。

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