子猫な同居人
TMK.
第1話 同居人は⚪︎⚪︎
「はぁ…今日も残業だった…」
会社からの帰り道、暗い路地で一人呟いた。
なんだかとても寂しい気分になってしまう。
最近、残業ばかりで気が滅入ってしまっているのかもしれない。新入社員の頃に期待していた、社内での秘密のどきどき交際なんてものもあるワケがなく、ただただ平凡な日々を送っている。
美人な先輩は確かにいるけれども、俺が相手されるわけないしなぁ…。あの人は仕事もできるし、愛想も良いし、正直俺のことなんか眼中にないだろう。多分、顔どころか名前すら覚えられていない気がする。
そんなことを考えていると、余計にため息がもれ、虚しくなってしまう。別に泣きはしないが。
それに、俺は今の生活でも充分満足しているつもりだ。なぜなら家に帰って玄関を開けると、そこに俺を出迎えてくれる可愛い
今日も待ってくれているだろう。いつもこんな遅くまでごめんな…。
今にも力尽きそうな身体で、部屋の扉を開ける。
「さくらぁぁぁっ!いっつも待っててくれてありがとうな〜!」
家に入るや否や、俺は彼女に飛びついた。
あぁ、相変わらずシャンプーのいい匂いがしているな…。もうこのままずっとこうしていたいなぁ。このフサフサでサラサラな毛並み、癒される——。
頬をすりすりと当てていると、彼女はニャアと鳴きながら顔を舐めてきた。
「こらこら、そんなに舐めたらくすぐったいだろっ。どうして最近口の周りばっかり舐めるんだぁ」
「ニャー」
甘えん坊なのか分からないが、最近さくらからのスキンシップが激しいような気がする。もちろん、とても嬉しいのだが。
それにしても本当にきれいな色だな…。ん、体重も少し重くなったかな。こいつも女の子だし、こんなこと思ってたら失礼かな。
「さくら、お前の毛は天使の羽みたいに白くて綺麗だなぁ。エンジェルって名前のほうがよかったかー?」
「ニャ……⁉︎」
狭すぎず、広すぎないようなアパートの一室。俺とさくらはここで変わらない日々を過ごしている。
仕事から帰ってきて、コンビニの弁当を食べたあとは風呂に入ってすぐに寝る。そして起きたら軽い朝食をとってから会社にいく、そんな毎日だ。なにもなくて平和な日々。
「…さくらとちゃんと喋れたらいいんだけどな」
「ニャー」
「俺の言ってることを理解してるのか、してないのか…。よし、そろそろ飯にするか!」
重たい腰を上げて、キッチンへ向かった。
えーっと、二分くらい温めたらいいのかな。
今日はからあげ弁当にしてみた。いつもは少し変わったものを食べているのだが、今日はそんな気分でもなかったのだ。
袋から取り出した弁当を電子レンジにつっこみ、冷蔵庫から缶ビールを一本取り出す。やはりこれがないと、一日を締めくくれない。もちろん、次の日の仕事に支障が出ないように、小さい缶のやつだ。
「よーし、さくらもちゃんと食えよー」
猫缶を皿に出し、ちゃぶ台の隣に置いてやる。一緒に食べてくれる人がいるだけで、結構気分が変わるもんだ。まぁ、正確には人ではなくて猫だが。
「…あ、でもお前最近太ったからちゃんと動くんだぞー」
指摘してやったのに、問答無用で引っ掻かれた。
心なしか、さくらが少し拗ねているように見えた。というか、ちゃんと理解してるんだな…。
そんなことをしていると、弁当が温め終わっていた。いい匂いだ。
「いただきまーす」
まずはビールを一口。これはお決まりの手順だ。
この一杯は毎回、疲れた身体に染み渡る…!
「さくらも美味いか?」
返事はなかった。やはり怒っているのだろうか。今はそっとしておいてやることにしよう。しつこく話しかけて嫌われたら悲しいからな。流石にそんなことになったら、俺はどうなってしまうか分からない。最悪の場合、家出してしまうかもしれないし。
録画していたアニメを観ながら、弁当をどんどんと腹に詰めていった。
・ ・ ・
「よし、そろそろ風呂に入るか。……それはついてくるんだな…」
「ニャー」
猫は気分屋だ。怒っているのかと思えば、次の瞬間にはこうやって付いてくるわけだし。そこが可愛くもあるのだが、もう少し行動が読めたらな…。
そんなことを思いながら、俺たちは風呂に入った。いつもは大人しいのだが、今日はやけにさくらが暴れまわって大変だった。
風呂が嫌いになった…ワケではないだろうしな。もしそうならば、ついてくるはずないよな。
「おやすみ、さくら」
電気を消すと、さくらは何故か布団の中に潜ってきた。太もものあたりに熱が伝わってくる。
少し暑い気もするが、よしとするか。
こうして俺は眠りについた。
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