第2話 自己修復

「ついて来いって言うから来たけど、なんでこんな所に……?」


 息が詰まるような雰囲気を纏った世界。

謎の女性の数歩後ろをついてやって来たのは、なんの変哲もないコンビニだった。


「えっと、もしかして一緒に入りたいのか?

……トイレ」


 彼女が意外にも頬を赤らめたせいで、俺は自分の過ちに気がついた。


「そ、そんなわけねぇだろ!」

「よかった、ならここで待っていてくれ」


 一体なんなんだよ、アイツは…。

俺をバカにしたいだけなのか?

 美人で、なにを考えているのよく分からない彼女の言動に悩まされ、ため息をついた。


「本当にみんないなくなったんだな…」


 店の中に入り、再び実感した。

 誰もいないコンビニなんて初めてだった。

客どこほか店員すらもいない、寂しい店。

試しに菓子パンを手に取ってみた。


「お〜い、今から万引きするぞー!逃げられたくなかったら捕まえに来いよー!」


 そんなことを言っても、誰の返事もこなかった。自分の方向を向いているはずの防犯カメラの向こう側にも、誰もいないんだろうなぁ、なんてことを思ってしまう。

 だが、俺は一人ではなかった。


「コラ、見つかったらどうするんだ」


 コツンと俺の頭を叩くのは、人間の手だった。


「トイレ、長かったな」

「レディにそんなことを言うのは失礼だろう。それともあれか、私のことを女らしくないと思っているな?」

「いや、そんなことはない…はず…」


 腕を組んでいるせいで強調されている胸に視線を奪われてしまう。これも男のさがなのだろうか。


「でも、見つかるって誰にだよ。ここには俺たち以外は誰もいないだろ?」

「そうだな。私たち以外は誰もいない。——人間は、な」

「ワケわかんねぇよ…」

「まぁ、今は分からなくていいさ。ついて来な」


 そう言って彼女は店から出て行ってしまった。

俺のことを振り返りもせず、ずっと前を向いて。

 そんな彼女の威圧感から、俺はなにも質問することなく、ただただうしろをついて行った。

 この世界はどうなったんだとか、他の人たちはどこに行ったんだとか、そんな言葉を飲み込んで、ひたすら前を向いて進んだ。


  ・  ・  ・


「どこまで行くつもりなんだよ…」


 久々に口を開く頃には、俺の体力はほとんど削られていた。


「あと少しでつく。頑張れ」


 先からどれだけ進んだのだろうか。

絶望してしまいそうなほど長く、気味の悪い階段をずっと登ってきた。

 これ、あとどれくらい登ったらいいんだよ…。

膝に手をついてしまうくらい疲れてしまった。


「ほら、見えてきたぞ」


 顔を上げた先に映ったのは、見たことのない小さな神社だった。

こんなところに神社なんてあったんだな。

林に囲まれているここは、とても涼しかった。


「今、涼しいと思っただろう?」

「あぁ、風が気持ちいいしな」

「残念ながら、それは勘違いだ。この世界が暗闇に包まれた時から、暑さは感じていなかったはずだ」

「——えっ⁉︎」


 確かにその通りだったかもしれない。

この島に着いた時が暑かったせいで、ずっとそう思い込んでいただけだったのか…?

その証拠に、自分の身体から流れる汗は一滴も無いということに気がついた。

 だが、どうして彼女はそんなことが分かるのだろうか。どうして、この状況で落ち着いていられるのだろうか。とても気になった。


「なぁ、お前は何者なんだ?」

「私か?私は華月かづき。気軽にママとでも呼んでくれ」

「気軽に呼べるやつじゃないだろ、それ…」

「ま、ここまで来れば一先ずは安心だと思うんだが…おいっ、隠れろ!」


 ジャリッ、となにかが近づいてくるような音がすると同時に、華月さんは俺の腕を引っ張って、拝殿の陰に隠れた。


「なんで隠れるんだよ!他の人がいるんじゃないのか⁉︎」


 彼女は慌てて俺の口を手で塞いだ。


「しーっ、言っただろう、ここには私たち以外の人間はいないんだ。それに、キミにはアレが人に見えるのか?」


 華月さんがアレと言うものに視線を移すと、そこには人型のロボットの様なモノが立っていた。

 なんなんだよ、アレ!どう見てもコスプレってレベルじゃないし、人が入っているとは思えない…!


「——、キミという異物を排除するためにやって来たんだ…」

「——っ⁉︎」


 この時、俺にはその言葉の意味を理解することができなかった。

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