異音

じゃせんちゃん

ガシャン

寝ていた男は遠くで微かに聞こえた異音で目を覚ます。


その正体を探るため音が聞こえて来たと思われるキッチンへ向かうと、床には砕けたマグカップと机の上に我関せずと言うように澄ました顔の飼い猫がいた。


この悪戯っ子め。


お気に入りのマグカップが使い物にならなくなったのは残念だが、可愛らしい愛猫に怪我無かったのが幸いだ。


砕けたマグカップの破片を拾い集めて片付けが終わる頃には早くも出社時刻が迫っているではないか。

エサ皿にたっぷりと猫餌を盛ってやり、自分自身のエサは我慢して家を出る。





朝の爽やかな日差しを浴びながら伸びを一つ、今日も1日がんばろう。


通勤に使う最寄りの駅へ歩き始めてしばらくすると背後から、



ガシャン



先程まで伸びをしていた場所に、割れた鉢植えがあった。


後少しでもそこに居ればどうなっていた事か、男は安堵しながら会社に向かう。



会社に着くと一番にタイムカードを切り、服を着替える偶にロッカールームへ向かう。

既に出社していた同僚達がこれから始まる業務時間に憂鬱に成りながらダラダラと作業着へ着替えている。

男も時間に間に合う様に着替え脱いだ服をロッカーに投げ込み扉を閉め、ロッカールームを後にしようとした時だ、



ガシャン



確実に閉めたはずのロッカーの扉が開いている。


男は訝しみながらも再びロッカーの扉を閉めた。貧乏会社め、俺達の給料をケチっている癖に会社の備品も直さないのか?

男は少し苛立ちながらもロッカールームを後にした。



朝からの出来事を不思議に思いながらも男は黙々と仕事をこなし、日が暮れた頃ようやく今日の予定していた全ての仕事が終わった。

仕事道具を片付けようと倉庫へ向かい、使った道具を元あった場所へ戻していると、



ガシャン



倉庫の重たい扉がひとりでに閉まったのだ。

男は朝から続く不可思議な出来事を思い出し、自分が今置かれている状態は異常であると確信する。


とにかくここを出なくては。


男がいくら力を込めても倉庫の扉はびくともせず、扉を叩いて叫んでみたが誰かが助けに来てくれる気配はしない。

途方に暮れる男の背後でまた、



ガシャン



あの音がする。

倉庫の奥の棚が一つ倒れていた。



ガシャン



また一つ棚が倒れる。



ガシャン



ガシャン、ガシャン



ガシャン、ガシャン、ガシャン



倉庫の奥から目に見えない何かが棚を倒しながらこちらに迫っている様だった。


もうダメ、潰される。


そう思って身構えていると、



ガシャン



扉が開き、男は急いで飛び出し倉庫から距離を取る。


すると男の反応を楽しんでいるかの様にまた、



ガシャン



倉庫の扉が閉じたのだ。




この日を界に男の周りではこの異音が鳴り響く度に不可解な現象が立て続けに起こる様になり、



ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン...




ガシャン!!!!!



気が狂いそうな毎日に耐えきれなくなった男が最後に聞いた音は、ビルから飛び降り、真下にあった車のフロントガラスを自分の頭が突き破った音だった。






「飛び降り自殺か、なんか相当気が参っていたらしいな、もう直ぐ遺族が引き取るに来るらしいから準備しておけよ」


遺体安置所の扉が閉じる。



ガシャン

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異音 じゃせんちゃん @tya_tya_010

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