海のような人生

もかの@NIT

海のような人生

 海を、鏡だと考えたことはないだろうか。


 海は『海』という名前をつけられただけの透明な水である。地球上の陸地でない部分で、全体が一続きになって塩水をたたえている所とも説明できる。


 なのに、海は青く澄んでいる。


 その青は、海自身の色ではなく、空の色を反射したからである。まるで鏡のように反射し、自分のものにしている。


 空は自我を持って、青、橙、黒とその見た目を変えているというのに、海はそれを真似するだけである。真似をして、自分もそうであると錯覚したいのだ。




 僕は、そんな鏡のような海みたいな人生だった。




 昼間の海は、空の色を完全に真似ていた。どこまでも青く澄んでいた。


 青は、人間の心理からして、爽やか・冷静・誠実・知的・清潔、そんな印象を与えてくれる。そんな青のような人の真似事をして生きてきたこともあった。




 ザザーンという波の音とともに、僕もザッザッザッとその音を真似るように渇いた砂浜を歩く。




 夕方の海も、色鮮やかなその夕陽の色を真似ていた。しかし、その色はどこまでも続いていなかった。完璧には真似できていなかった。


 橙は、明るく活発な印象や暖かい印象を与えてくれる。そんな橙のような人の真似事は長くは続かなかった。




 波で湿っている砂の場所まで歩いてきた。渇いた砂浜は広かったので、かなりの時間歩んできたが、湿った砂浜は、あまり長く続かなかった。

 それに、渇いた砂浜のような音も鳴らなかったので、力強く、しがみつくように、湿った砂浜を踏みつけ、無理矢理真似た音を出した。




 夜の海は、その暗闇を完璧に真似ていた。昼間の青よりも、だ。しかし、その水面に星々の輝きは一切なかった。


 黒は常に他の色名の反対語であり、死、不幸、闇、悪などの否定的な意味を象徴する。


 希望の『光』。栄光の『光』。光。光。光──。


 海が真似できたのは、月光だけだった。




 海水に踏み入れた。それでも、僕は止まることは無い。

 海のような人生を送ってきたのだ。海で終わりたいと思うのは、間違っているだろうか。

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