第3話 恋愛の極意
「ヒデくん、ちょっと寄り道していこうよ!」
そう言われたのはちょうど帰りのHR《ホームルーム》が終わって教科書をカバンに詰めていた時だった。
「いいけど何か予定あるの?」
「それは着いてからのお楽しみ!ほら、行こっ!」
そう言って香帆里は強引に僕の手を引き、教室から連れ去った。特に珍しいことではないのだが、いつも彼女の突然の思いつきに振り回されているような気がしてたまらない…。
・ ・ ・
「——ね、ヒデくん、それ美味しい?」
「うん、美味しいよ」
香帆里に連れてこられたのは、学校の近くに最近できたばかりのカフェだった。どうやらここは飲み物だけでなく、クレープがとても絶品だと若い女性の間で人気らしい。少し前には雑誌に取り上げられたとかなんとか。
落ち着いた雰囲気の空間。テーブルやカウンターのほとんどの席が埋まっていて、皆楽しそうにお喋りをしながらくつろいでいるようだ。
「香帆里、ほっぺたにクリームついてるよ」
「えっ、どっち…?ヒデくん取って…?」
香帆里は上目遣いで頬を赤らめながら少し困ったような表情を見せてきた。よっぽど焦っているのかな。早く取ってあげよう。
唇の少し横についたクリームをそっと人差し指ですくうように取った。
「あっ、ごめん指で取っちゃって。お手拭きでやった方が綺麗にできたよね」
「ううん、いいの。指出してくれる?そのクリーム、もったいないよね……?」
言われた通りに指を差し出すと、彼女はそれをペロリと舐めてしまった。
「ンンンンン!?!?」
香帆里の予想外の行動に言葉を失ってしまった、というか変な声がでてしまった。人の舌ってすごい生温かいんだな……絡みついてくるというか……。
「じゃなくて!別に舐めなくてよかったのに!」
「だってもったいなくて…」
「だ、だからってそこまでしなくても…!」
ますます頬を赤らめる彼女を見ていると、何故だかこっちまで熱くなってきてしまった。
ダメだ、意識するな…!僕はただの幼馴染で、だから香帆里はそんなことをしただけで…!変な気があったわけじゃないから!
「こっ、コノコウチャオイシイネー、ハハハハ」
「ヒデくん、それオレンジジュースだけど…」
「うっ……」
気まずくてついおかしなことを言ってしまった。何か他の話題を見つけないと…!
「そうだっ!香帆里の頼んだ飲み物ってなんだっけ!」
「私はレモンティーを頼んでみたの。熱そうだったから冷ましてたんだけど、そろそろ飲めるかな?——あつっ…!」
「大丈夫!?」
「うん…。でもちょっとこぼれちゃったからヒデくん拭いてくれる…?」
香帆里が白く細い指でゆっくりとさしたのは胸の辺りだった。確かに制服にレモンティーがこぼれてしまっている、のだが……。自然と視線を横に逸らしてしまう。うぅ、僕は思春期の高校生かッ!
「流石にその場所は厳しいデス……」
「ねぇ、お願いヒデくん、自分じゃ上手く拭けないの…」
「はうぅっっ!!?」
右手に柔らかい感覚がすると思って見てみると、香帆里が僕の腕を掴んで自分の胸に押しつけていた。
「あの、香帆里さん?それ僕の手だけで拭けるんでしょうか…?お手ひゅきのほうがいいんじゃ…」
……肝心なところで噛んだー!!これじゃあ幼馴染の胸を触って混乱してる変な男だって勘違いされるー!!
「そそそそ、そうねっ、たしかにヒデくんの言う通りお手拭きのほうが良さそうね!ちょっとあっちで鏡見ながら拭いてくるから待ってて!」
よっぽど慌てていたのか、彼女は椅子から立ち上がるときに落としたカバンに気づくこともなくトイレへ向かってしまった。
「あーあ、教科書も出ちゃってるし…。戻ってくる前に片付けるか」
数学に現代文……毎回教科書持って帰ってるのか、真面目だな…。大量のノートや教科書、これを毎日持ち運ぶのは面倒だろうに。そんな中から一つ不思議なものが出てきた。
「どんな鈍感男でもイチコロ猿でも使える恋愛の極意?」
付箋が貼っているのが気になって開けてみると、中はとてもおかしなことが書かれていた。
『1頬に食べ物をつけて可愛くアピールすべし』
『2胸に飲み物をこぼすべし』
『3手作り料理で女子力をみせるべし』
「やっぱり香帆里には好きな人がいるのか…」
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