第2話 惚れ薬


「秀明、おはよーっす。あと飯田さんもおはよー」


 目つきは少々悪いが、優しい性格とトサカヘアーの持ち主である山村やまむら龍星りゅうせいがやってきた。


「うん、おはよー」


 僕は香帆里と同じ一年二組で、挨拶をしてきた山村も同じクラスだ。

相変わらず、髪がツンツンしてるな…。


「おっ、お二人さんは今日も一緒に登校だったんですかー?朝からおアツいですねー」

「ちょっと、おアツいだなんて…きょうちゃんったら…」


 次に教室に入ってきたのは、香帆里の一番の女友達である藤原ふじわら京子きょうこ。彼女は、赤いメガネと少し茶色がかった髪のポニーテールと高身長が特徴だ。

付け加えるなら、一人称が『ウチ』の女子はクラスに彼女一人だけだ。


 そして藤原と山村は、自分の席にカバンを置いてこっちにやってくる。

 僕の席は、教室の入り口から一番近い場所。

廊下側の一番前にある。

 そこに集まっているのは、僕と香帆里、藤原と山本のいつものメンツだ。


「ねぇ、ヒデくん」

「なに?」

「ジャーン!これなーんだ!」


 香帆里はスカートのポケットの中から袋を出してきた。


「クッキーだな。秀明、おめでとう」

「え?なんで僕?」


 山本が僕の代わりに答え、それからなぜか『おめでとう』と祝われた。


「せいかーい!はい、これヒデくんに」

「ありがとう…?」


 香帆里は手に持っていたクッキーの入った袋を僕に渡してくれた。


「あと、山村くんと京ちゃんもね」

「おぉ!マジすか!」

「流石はウチの親友だー!」


 涙を流して喜ぶ山本と、香帆里に抱きつきながら喜ぶ藤原。

 お菓子作りを趣味としている香帆里が作るクッキーはとても絶品で、貰って喜ばない者はいない。


 しかし、僕はあることに気づいた。


「なんか僕の…他のと色が違うような…?」

「うっ!…ソ、ソナコトナイヨー」


 その反応の仕方は何かあるな。

というかこの色絶対おかしい。


「あ、ほんとだー。ウチのと全然色違うー。もしかして、高宮は特別とか…?」


 あぁ、これは完全に僕たちをカップル扱いしていじろうとしている目だ…。


「そんなわけないよ!ほら、一つ食べてみてよ!」

「そうだね」


 まぁ、香帆里は流石に変なことはしないだろう。

 袋を開けてクッキーを一枚手に取っただけで香ばしい香りがしてくる。

そして、一口でそれを食べてしまう。


「ん!?」

「ど…どう?」


香帆里が心配そうに僕の顔を覗き込む。


「……おいしい!」

「でしょ!?」

「じゃあ、その色の違いはなんなんだ?」


 たしかに、山本の言う通りだ。

色は違うが、味は特に何かが入っているとは思えないものだった。


「ま、見た目もいいし味もいいならそれでいいんじゃないの?ウチもそっちが欲しかった〜」


 藤原の言うことも一理あるな。

 こうして僕たちが話しているうちに時間は経って、授業開始五分前のチャイムがなった。


「それじゃあ、私は先に席に戻るねー」

「じゃあ、俺らも戻るかー」


 一番最初に席に戻ったのは香帆里だった。

山本と藤原たちはそのあとに戻ろうとしたのだが、なぜか凍りついたようになって微動だにしない。


「お…おい。秀明、これ見てみろよ…」


 凍りつきながらもゆっくりと腕を上げて地面を指さした。なにも知らない僕は椅子に座ったまま体を傾かせて、顔だけを出した。


「誰でも惚れーる(web限定版)…?」

「それを飯田さんが落としていったんだぜ…?」


その言葉を聞いて、隣の列の一番後ろの席に座っている香帆里のほうを向いた。

 あ!目を逸らしやがった!

てか口笛吹けてないし!


「はぁ、ほんっとに高宮は鈍いねー」


 やれやれ、と藤原がそう言った。


 僕はもう一度、香帆里の落し物——

惚れ薬の入った赤い箱に目をやった。


 なんでこんなの持ってたんだろうか。

やっぱり、香帆里にも好きな人がいるのかな?


「香帆里の好きな人って誰なんだろうね?」

「……」


 僕の問いに二人とも黙り込み、


「「お前はアホかぁぁぁぁー!!」」


と声を合わせて怒鳴ってきた。

急に怒鳴ってくるって理不尽すぎないか…?

 そしてクッキーをもう一枚食べる。


「ん、おいし」

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