第4話 想定外の展開

 花の都として有名なインフラワーニティ王国の王都は、至る所に彩り鮮やかな多くの花々がある。特に目にとまるのが、王族の名前にもなるほど美しいバラの花である。王城も薔薇を模して白と赤で彩られている。そんな煌びやかな王城にたどり着いたサラは、門番に用事を伝え、城の中へと入って行った。カサブランカ家の名前を出せば王城にも難なく入れる。まして第二王子の婚約者・クレアの招待状を持っていれば尚更である。


ーーいつもより人が多いですね。


華姫様のお披露目の後のせいか、城は慌ただしかった。クレアの付き添いで王城に何度も足を運んでいたサラだが、国内外からの来訪者が多くいるようだった。

 華姫という存在はそれ程この国にとっては影響の大きい存在なのだ。


「いやあ華姫様が現れたとなればこの国も安泰ですな」

「全くです。ロイド殿下とも仲が良さそうで。いやはや今後が楽しみですなあ」


貴族たちの世間話も至る所で耳に入ってくる。

 サラはうんざりした。

 式典で危惧していた通り、華姫様と守護騎士の恋愛を国中が望んでいる。今はまだ華姫のことで頭がいっぱいな貴族たちだが、しばらくすればロイドがいつ婚約破棄するのかという話になるだろう。


ーー殿下から婚約破棄を言い渡される前に……いえ。周囲が気にし始める前にお嬢様から婚約破棄する方がマシですね。


サラは早々にロイドに招待状を届けようと歩みを早めた。ロイドは華姫の警護をしているだろうから、ロイドの執事に渡してもらおうとロイドの住む離宮を目指していた。

 その途中でロイドが所属する騎士団の練習場を通りかかる。

 クレアもよく顔を出していたこともあり、サラの顔を覚えている騎士も少なくなかった。


「クレア様の侍女ですよね。どうかされたんですか?」


気さくな騎士がサラに声をかけてきてくれた。確か今年騎士団に入った新人だ。ロイドに憧れて騎士団に入団したという伯爵家次男だったと思う。いつも爽やかで人懐っこい人物だ。


「クレア様からロイド殿下に手紙を届けに参りました」


騎士達はぎょっとした。


「クレア様からの手紙!?」

「何!クレア様だって!?」


急に騎士団がざわめき出した。いつもなら皆、練習の手を止めたりはしない。

 騎士団に妙な緊張感があるように見えて、クレアは首を傾げた。


「あの何か不都合でもあるのでしょうか」


まさかもう既にロイドの心が華姫に傾いているのではないかとサラは顔をしかめた。


「いえ!何も不都合などありません!!」


急な大事にサラは目を丸くした。明らかに何か不都合があるとしか思えなかったが、新人騎士の勢いに勝てず、それ以上質問できなかった。


「……ところで」


可哀想なくらい緊張した新人騎士が、恐る恐るサラに尋ねてきた。


「クレア様からはどういった内容の手紙なのでしょうか」

「お茶会の招待状ですけど……」


サラは眉間に皺を寄せた。

 何かロイド側に不都合があるとしか考えられない。そしてこの突然の態度の変化は華姫が関係しているとしか思えなかった。

 しかしサラの予想を裏切って新人騎士はとても嬉しそうな笑顔を見せた。


「そうですか!!いやあ相変わらず仲睦まじいですね!羨ましいことです!」


新人騎士に釣られて他の騎士達も安心して練習に戻っていく。サラはますます首を傾げた。


「あの。本当に何があったのですか?」


新人騎士は少し言いにくそうに表情を歪めた。そして周囲を気にしながら、小さな声で教えてくれた。


「実は殿下は守護騎士になられるのを嫌がっておられたのです」

「え?名誉なことではないのですか」

「そうなんですけどね。どうもクレア様のことを気にしておられたようなんです。ほら華姫様と守護騎士というのはそういう噂が多いでしょう。だからクレア様が気に病まないか心配しておられたんです。それで我々にもクレア様に変わったことがあったら連絡するようにと」


言葉を選んで選んで教えてくれているが、どうやらそんな穏やかな内容ではなさそうだった。


「とても怯えているように見えますが」

「それはそうですよ。守護騎士になると決まってからも大変だったんです。それはもう荒れに荒れて……もしクレア様と破談にでもなったら俺たちも困ります」


サラは目を丸くした。まさかロイドがそこまでクレアのことを想っていたとは。


「いやあ!お茶会いいですね!ロイド殿下も良い気分転換になるでしょうね!」

「は、はあ……」

「長々と引き留めてしまって失礼しました」


新人騎士は晴れ晴れとした笑顔で練習に戻って行った。




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