第26話 貞操の危機

 あたしのドラゴンキラーと、青葉の三節棍がぶつかり合う。


 愚地おろちというだけあって、ヘビのようにくねくねといやらしい攻撃をしてくる。ヘビの頭よろしく、攻めては引く。ヒット・アンド・アウェイを多用してきた。


 ダンジョン攻略において、ぶっちゃけキラーは相手にしなくていい。遭遇した時点で、普通はアウト確定なのだ。たいてい倒してもメリットはなく、いざとなったら逃げてもいい。

 カギを手に入れる方法の中に、「キラーを倒す」というルールがあるだけ。

 だが、それは公式さえも推奨していない。


 あたしは、キラーを倒しに来ている。勝手に、戦いたいだけなのだ。キラーに恨みもない。親を殺されたわけでも、大事なものを壊されたでもない。ただ、戦いたいだけである。


 それゆえに、あたしはダンジョンを出禁になったのだ。攻略ではなく、破壊に来ているから。


「ただ眼の前の相手をぶん殴りたいって衝動は、なにものにも代えがたいよね。七星ななほし 洲桃すもも、あんたはボクと同じタイプの人間だと確信したよ」


 どうやら青葉は、あたしにシンパシーを感じているようだ。


「でも、ダンジョン最強の座は譲らない!」


 三節棍の動きが、激しくなった。槍のように構えて、連続突きをしてくる。


「おっおっおっ」


 あたしは、ドラゴンキラーで三節棍の複雑な突きをさばいていった。しかし、わずかに手の甲に攻撃がかする。


「ようやく手が届きそうだよ。ダンジョン無双の常連さんよ!」

 

「……?」


「ダンジョンで、無双したいタイプでしょ? あんたも」


 どうやら青葉は、あたしのことを勘違いしているみたいだ。


「でも、ダンジョンを無双していいのはボクだけだからね。ダンジョンにおいて最強って称号は、一人だけ持っていればいいのさ」


 なんかコイツは、最強最強って幻想に取り憑かれているみたいだ。


「さあ、さっさと負けてボクのものになりなよ」


 おお、いよいよ貞操の危機を迎えそうだ。


 けど、コイツはあたしの敵ではない。

 

「あんたがあたしに至らないところは、そこかな?」


「なにぃ?」


 あたしは、三節棍を片手で止めた。


「あたしは別に、最強とか興味ないから」


 どうせ戦うなら、あたしよりずっと強い相手のほうがいい。

 あたしの目的は、無双なんかじゃないから。


「なんだ? 急に全然当たらなくなった」


「あんたの殺気が、強くなりすぎてんだよ!」


 青葉は槍の先に、ビリビリと殺気を放っている。これでは、「よけてください」と言っているようなものだ。


「あんたくらいの攻撃は、毎日ねーちゃんから食らってるんだよ!」

 

 あたしは上のねーちゃんから、ほぼ毎日のようにスパーを頼まれていた。ゴリゴリのインファイターであるねーちゃんの攻撃を受けたことで、あたしは多少の殺気なら感じ取れる力を身に着けている。


 あたしはドラゴンキラーに、魔力を注ぎ込んだ。


 青葉が三節棍を前に構え、防御姿勢に。

 

「トドメだよ! 【ヒートスラッシュ】!」

 

 構わずあたしは、三節棍を切断する。


「くっ。ドワーフの装甲すら破壊する三節棍が、こうもあっさりと」


「その程度の耐久力じゃ、あたしの攻撃はふせげないかな」


「ちっ。負けた。直接攻撃しな」


 青葉が観念して、その場にしゃがみ込む。


 あたしは無視して、振り返った。


「なんで、トドメを刺さない?」


「参ったって言ってるやつを攻撃するほどの、ヒマがなくなった」


 携帯を確認して、あたしは魔王の隠れている場所に急ぐ。


 そこでは、はるたんが戦っているはずだ。



* * * * * * 

 

 

 金盞花きんせんか 晴子はるこは、愚地の長女、友希那と魔法を打ち合う。


 相手のムチをよけつつ、こちらも氷の刃を撃ち込む。


 岩の隙間に、突き刺さっている杖が。ひとりでに杖が魔力を収束させて、火球を放ってきた。


 背面跳びで、晴子は火球をよける。


 足首に、友希那のムチが絡みついた。

 

「置き杖とか! トラップが大量にあるとは思っていたけど」


 まだ祖母が現役だった頃の原始的な攻撃に、晴子は驚かされる。


「オーソドックスな攻撃ってのはね、使い古されてもなお有効なのさ!」


 金髪縦ロールの友希那が、ムチを振り回す。

 

「アハハ! ざまあないね! ワタクシのムチに捕まっちまうなんてさ!」



 

「わざと捕まったのが、わからないのかな?」

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