第23話 バチバチ三姉妹

 巳柳みやなぎとの練習試合まで、あたしたちの特訓が続いた。

 あたしの場合、家でも離れのジムで練習を続けている。母親にミット打ちを手伝ってもらうのだ。


 母が、末っ子にお乳を上げる時間となった。二番目の姉と、交代する。


 姉の構えているミットに、蹴りを打ち込む。

 スパーン! と、小気味いい音がジムに鳴り響いた。


 あたしがミット打ちをしている間、母がお乳を子どもに上げているという、すごい光景だ。


「姉ちゃんは、巳柳の愚地三姉妹とか知らん?」


 またスパーン! と、姉のミットに蹴り込む。


「あー。ちょっとあたしとねーさんとは、世代が違うんだよなあ。後輩には、『すごい新人が出てきた!』とか自慢されてるよ」


 愚地姉妹が現れた頃には、姉たちは既に高校を卒業している。


「モモからしたら、ノー情報の方が燃えるっしょ?」


「あたしは、ね。でもなー。同級生がどうかなー? 戦えるだろうかってねー」


 デリオン姫や綿毛は、情報を元にして攻略法を編み出すタイプだ。まったく目隠し状態では、対策できるかどうか。


「でも愚地の伝説は、色々と聞いているよ」


 アウェーでの戦績はそれなりだが、ホームではほぼ負けなしだとか。

 初代、二代目と、ホーム戦で敗北した姿はほとんど見たことがないと言われている。


「マジで勝てたのって、金盞花きんせんか 幹代みきよさんくらいじゃないかなぁ?」


 社会人部門になっても、その強さは変わらなかったらしいが。


「そんな強いん? 三姉妹揃ったら、ほとんど詰みみたいな感じなのかな?」


「かもしれんねー。いやー、伝説の愚地と戦えるあんたが、うらやましいよー」

 

「ねーちゃんたちも、いつか社会人ダンジョンでやれるじゃん」


「いやあ、若いうちは二度とないからね。あたしも、かーちゃんみたいに若くして結婚したりするかもじゃん? 上のねーちゃんみたいに、ダンジョンどころじゃなくなっちゃうかもしれんじゃん?」


「……上のねーちゃんならともかく、あんたにそんな未来はないから」


「モモ、ミット変われ」


 ねーちゃんの逆鱗に触れてしまい、今度はあたしが蹴りを受ける側になってしまった。



* * * * * * 

  


 練習試合の、当日を迎える。


「ようこそ、おいでくださいました。三澄みすみの紹介は、省きますわね。わたくしが、巳柳ダンジョン部のリーダー、愚地 友希那ゆきなですわ」


 少女漫画から出てきたような出で立ちの長身の女性が、あたしたちに頭を下げた。ド金髪縦ロールの女子高生って、マジでいるんだな。

 

「三女の、愚地 青葉だよ。よろしくね」


 かたや三女は、見た目が黒髪ショート美少年だ。スケバン並みのロングスカートで、こちらはマニッシュ……中性的な印象を受ける。


 ウチ等金盞花ダンジョン部に対してより、長女と三女のバチバチ感がすごい。誰と戦っているんだよ、この二人は?


 二人のまとめ役で辟易しているから、次女はやさぐれたんだろうな。

 あたしは、次女の三澄に同情した。


「お気遣い、無用ですわ。わたくしは、三人いっしょなら無敵だと信じておりますから」


「ボク一人だけで、片付けてもいいんだよ。姉さん」


 取り繕うとした三澄の言葉に、さっそく青葉が噛みつく。


「それは、実際に片付けてからおっしゃい。青葉」


 長女の友希那が、青葉の発言をたしなめた。


 ハーっとため息を付いているあたり、青葉はまったく意に介していない様子である。


「では、ルールは従来通り、公式ルールで参りましょう」


 あたしたちがホームで巳柳と戦ったときと、同じルールだ。


 ダンジョン内にある三つの鍵を探して、魔王役を連れて出ればいい。


「今回、キラーは二人いますから。わたくし友希那と、青葉がお相手いたします」


 つまり、魔王役は三澄ってわけか。それでも、手ごわそうだが。

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