第21話 相手チームからの、対戦要求

 あたしの眼の前にいるのは、どう見ても「エドワード大学付属 女子高等学校」の生徒だ。

 ドワ女のダンジョン部リーダーであるトロちゃんが、サブリーダーのパニさんにおんぶされている。


 しかも、ふたりともお揃いの服装をしていた。いわゆる「地雷系ドワーフ」である。ミニのフリルスカートと、レースバチバチの黒ニーソ。前髪に、色違いのメッシュまでかましている。対戦したときは、黒髪だったのに。


 ゴスロリカップルは、町中華に場違いなくらい目立っていた。


 普段のドワ女って、こんな感じなんだな。普段が建築業と男臭いから、反動でこうなってしまうのかもしれない。


「ほらあ。モモさんが店番しているかもしれないから、避けようって言ったじゃないっすかー」

 

「でもでも、ごはんを食べるならここがいいって思ったんだよ! ここのチャーハンを、お前に食べさせたかったの! めちゃうまいから!」


 ランチを巡って、パニさんとトロちゃんが言い争いをしている。


「あはは、こんちはー、モモさん。Bセット二つ」


「あいよ。オヤジ、Bふたつ!」


 気を取り直して、あたしはパニさんからオーダーを受けた。


 とはいえ、ありがたい。

 ゴスロリでバッチリ決めているなら、おしゃれなカフェなどをチョイスするはず。なのに、うちに来てくれるなんて。


 Bセットのチャーハン・唐揚げ定食を、トロちゃんとパニさんに提供する。


「どうぞー」


 二人のテーブルに、ランチセットを置く。

 

「ここ、これはだな! 筋肉痛でおぶってもらっているだけで! 決して、普段からこうやっておぶって移動しているわけじゃないから! わかった!?」


「アッハイ」


「ぜったい公言するなよ!」


「アッハイ……」

 

 よほど恥ずかしかったのか、トロちゃんもパニさんも秒でBセットを食って帰っていった。


 ひとまず、客足が落ち着いてくる。


 そのタイミングで、学生風の少女が来店してきた。ランチにしては、遅めかな。ランチセットも、終わった時間帯だ。


 こちらも白いワンピースとクリーム色のカーディガンといったお嬢様スタイルで、明らかに町中華の中で異彩を放っていた。

 

 町中華の中では、お嬢様スタイルでの入店が流行っているのか?


「天津チャーハンを。デザートに『とろとろ杏仁豆腐』をお願いしますわ」

 

「あいよ……お? あんたは」


 さっきはるたんとの話にでてきた巳柳みやなぎの二年、愚地おろち 三澄みすみである。


「おっと、天津チャーハンね。オヤジ!」


 あたしはカウンターの向こうにいる父に、オーダーをする。


「ショートパンツ姿も、美しいですわね」


「どうもどうも。そういうことを言ってくれるの、オヤジの連れのオッサンくらいしかいないから新鮮だよ」


 愚地のテーブルに、天津チャーハンを置く。


 卵が大好きなのか、愚地は上に乗った卵と一緒にチャーハンを口へと運んだ。


「うんめ……コホン。おいしゅうございましてよ」


 素が出ていましてよ、お客様。オホホ。

 

「実は、お願いがあってきました」


 杏仁豆腐をきっちり食べ終わって、愚地はドリンクのオレンジジュースまでたしなむ。作動みたいな持ち方で、瓶を傾けている。

 

「おん?」


「うちのダンジョンにいらしてください。歓迎いたします」


 対戦要求が、愚地から来た。


「わたくしからというより、我が学校のリーダーが、あなたにお詫びがしたいと」


「お詫び、とな?」


 あたしら、相手になんかされたっけ?


「リーダーは、金盞花きんせんかに自らが出向かなかったことを、恥じております。自分たちの祖母【愚地三姉妹】を倒した金盞花きんせんか 幹代みきよの孫と、ちゃんと向き合わなかったと」


『できたてホヤホヤのダンジョン部など、姪に偵察させておけばいい』と、リーダーは思っていたらしい。


「リーダーってのは、あんたの伯母さんなんだな?」


「はい。愚地 友希那ゆきな。わたくしの父の兄の娘です。愚地一族だと、あちらが本家となりますね」


 コイツもたいがい強かったのに、もっとヤバい奴がいるってわけか。


「いかがでしょう? 我が姉の提案、受けていただけますでしょうか?」


「はるたんと相談しないとイカンが、あたしはOKだよ」


「ありがとうございます」


「ところで、ルールは?」


「公式ルールで構いませんわ。ドワ女の方々とは、『風魔』ルールで戦ったとお聞きましたので、そちらでも構いませんけど」


「公式ルールでお願いします」


 曲者の愚地が提案する【風雲 魔王城!】ルールなんて、事故しか起きねえだろ。沼地に毒とか、ガチで設置しそう。

  

「もし我らのダンジョン部にいらっしゃるなら、わたくしを含む愚地三姉妹の血族が、全力でお相手いたしますわ」


 愚地、姪、姪の妹で、あたしたちの相手をするそうだ。


「おう。楽しみにしてるぜ。といっても、はるたんとの相談の後だけどな」


「よきお返事を。では」


 最後まで優雅に、愚地は帰っていく。

 


* * * * * *

 

 

「……モモ。あんた、マジでバカじゃないの?」

 

 翌日、はるたんからめちゃ怒られた。声のトーンが、二オクターブくらい低い。


「安請け合いして。あんた、巳柳みやなぎのダンジョン部がなんて言われているか知ってるの?」


「なんて呼ばれてるんだ?」


「【蛇塚ヘビヅカ】よ。通称、【お化け屋敷】」


 そのダンジョンは毎回、妖怪大戦争になるという。

 

「沼地に毒とか設置してそう?」


「バチバチ、してるわよ」

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