第15話 圧倒的に、ダンジョン部に足りなかったもの

 はるたんが、次の台詞を貯めに貯める。


「ウチらに圧倒的に足りなかったもの……それは、女子力!」


「女子力なんて気にするタイプだったっけ、お前!?」


「いやあ、女子力大事よ、モモ。特に女子校のダンジョン部は」


「男子禁制なのに?」

 

「だからだよ、モモ。ウチら、どれだけ女子っぽさないのかよ、と」


 たしかに、言えてるかも。


 はるたんにダンジョンを任せていたら、永遠に殺風景なダンジョンのままだ。女子力のない、木造旧校舎として、ずっとこの地に残り続けるだろう。


「今の時代、機能性だけ追求してもダメなんだって」


「映えを気にしろと?」


「ていうか、映えをカモフラージュにして、凶悪なダンジョンにしたい」


「なるほど!」


 このビジュアルは、むごたらしいトラップを隠すためのアップリケであると。


「『わぁ~。なんてファンシーな見た目なの? キャハハウフフギャアア!』みたいなのを、期待している」


「悪い顔してんなー、お前」


 ではさっそく、ダンジョンを作った張本人と対面致しましょう。


「おお、モモとはるたん」


 部長兼ダンジョンマスターとなったデリオン姫が、ノートPCで何かをチェックしていた。

 

「モモさんにはるたんさん、お茶を入れてました。どうぞ」


 あたしは着席して、「どうも」とホットカフェオレをもらう。

 お茶請けはいつもなら、はるたんがお取り寄せした特製お菓子のはずだ。

 今日はエルフの『綿毛』が手作りした、チーズケーキである。


「たまにでいいので、料理させていただけると」


「構わない。材料費とかはこっちで持つから、請求してね」


「そんな、好きでやっていますから」

 

「交際費として、部費でまかなうから、気にしないで」


 でしたらと。


 ああー、チーズケーキが口の中でとろけるぅ。

 うまい。お店で食べるよりガッツリしているのに、味わいは上品だぁ。


 デリオン姫もたいしたもんだが、綿毛の女子力も相当なものである。


「でさ、デリオン姫はなにをチェックしてんの?」


「『お前らのダンジョン探訪』って配信」


 姫が、ノートPCの画面をこちらに向けた。


 自作ダンジョンの様子をアップしたSNSを、VTuberが解説している。

 

 ダンジョンマスターの中には、自分たちのダンジョンをお披露目している存在も。


 姫はそれらをくまなくチェックして、自分のダンジョンでも活用できないか調べているのだ。

 この勉強熱心な部分も、はるたんは欲していた。


「姫、あんたのVアバターも、自分で描いたんだよね?」


「そういうの好きだったから。あと、画面のレイアウトも全部自分でやった」


 すごいな。デリオンって、どこまで才能があるんだろう。

 あたしなんて、動画にコメントを打つ方法すらロクに知らない。


「綿毛の方も、各ダンジョン部の部員たちの調査を進めているんだよね?」


「はい。それが趣味みたいなものでして」


 綿毛の方も、様々な女子校のダンジョン部のサイトを周り、力量などを調べている。


「あんたのデータは、今後も頼りになる。期待しているから」


「ありがとうございます、はるたんさん。それでですね……」


 さっそく綿毛が、対戦を求める高校を調べていた。


「ああ、巳柳みやなぎをやっつけて、対戦要求の数が減ったと思っていたのに」


「はい。こちらの高校は、それでも対戦したいと」


「わかった。約束を取り付けて」


 そこではるたんが、「おっと」とデリオンに視線を向ける。


「いいよね、姫部長?」


「どんとこいなのだ」

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