第14話 新生ユリ園ダンジョン

「ほへー」


 あたしは、生まれ変わったダンジョン:【ユリ園】の様相に唖然となる。


 昨日まで、いかにも「木造の寂れた旧校舎」だったのに。


 今ではどうだろう? お金持ちのお屋敷とみ間違えそうなほどの外観だ。


「すごいっしょ、モモ。これが、ウッドエルフの本気ってわけ」


 遅れてやってきた金盞花晴子はるたんが、あたしの隣に立つ。


「まあ、中身も見てよ。すごいことになってるはずだから」


 あたしは待ちきれなくて、ダンジョンにも入っていく。


 窓の外から見ても、やたらファンタジックになっているのは見えていた。中は、どうなっているのだろうか。


「すっご! 中庭に噴水がある! ふつくしい!」


 中庭の段階で、あたしは圧倒された。休憩用のベンチまで、用意されているではないか。


「回復の泉まで、兼ねているんだ。これで、アタック側がやられる確率はグッと下がる。ディフェンス側は不利になるけど、あたしら的には敵がしぶとくなってくれて、大歓迎」


 強い相手との戦いに飢えているはるたんが、好意的な感想を述べる。


「完全に、異世界系の魔法科学校じゃん! いいわー。こういうところに、通いたかったんだよなあ!」


 本が襲ってくる図書室。無限ループする廊下トラップ。美術室の石膏像も、音楽室にある肖像画の目も、ちゃんと動く。なにもしてこないけど。

 アニメでしか見たことのない世界が、ユリ園に広がっている。

 とはいえ内装はちゃんと、お嬢様の通う学校然としていた。 

 まさに、お嬢様学校バンッ! 乙女の園ババンッ! すっごいキレイバババンバンッ!


 三年生の教室には、黒板の寄せ書きがあって、エモい。これ、一人で全部書いたのか。空想の友だちを想定して。


 視聴覚教室のホワイトボードには、大量のコンピュータ言語が書き記されている。これはトラップだ。誤字を修正して教室内のPCに正解を打ち込まないと、敵が無限湧きしてしまう。


 教室に画鋲で貼られている習字も、すべて魔物を召喚する魔法陣だ。入った途端、ザコが大量に湧いてくる。 


「あんたじゃ絶対、作れないよね。こんなダンジョン」


「ありものに適当に魔物を配置して、おしまいだよ。要は、効率的に勝てればいいから」


 こういった「ダンジョンそのものを楽しむ構成力」を、はるたんは持ち合わせていない。よく言えば効率重視、悪く言えば殺風景になる。


「こうなることを見越して、あんたはユリ園の権利をデリオン姫にあげちゃったわけか」


「ダンジョンマスターは、ダンジョンの外観や内装の責任を請け負える。つまり、好きな状態に作り放題ってわけ」


 デリオン姫のありあまるダンジョン愛を、フルに活かしてもらったと。


「森にあるダンジョンの中核って、ウッドエルフが担っていたりするんだよ。これ実は、あまり知られていない事実なんだよね」


 ダンジョンを作る側に回らないと、エルフの有用性は入ってこないらしい。有力者は、ネット内でも情報を伏せているのだ。

 金盞花晴子はるたんは、最年少でダンジョンマスターになった経験がある。ダンジョン作成にウッドエルフがいかに重要か、知り尽くしているのだ。


「とはいえ、ウッドエルフの能力って、マジで見てくれ向上程度だから。ダンジョンの有用性で言ったら、実用化には乏しいんだよ」


 それでもはるたんは、ウッドエルフのデリオン姫を必要としていた。


「とにかく、モモとウチが、絶対に持ち合わせていないものを、デリオン姫は圧倒的に持っていた」


「それは?」

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