第5話 新生ダンジョン部 再始動
「あーんむっ」
はるたんがヒナ鳥のように口を開けて、高級プリンを待つ。
あたしは、プリンをスプーンですくって、はるたんに食べさせた。
「
「いただきます」
うんまっ。
いつも食べてるコンビニプリンとは違って、昭和の純喫茶で食うような硬さだ。甘さが引き締まっていて、上品な口当たりである。カラメルが苦くて、また甘さが引き立っていた。
「それで、どうしてダンジョン部を再開しようとしたんです?」
金盞花グループは、日本にあるダンジョンの三割を所持・管理・運営している。それこそ、不動産のように。彼らダンジョンマスターは、自分たちのことを部下に「魔王」と呼ばせている。普通の会社のように、管理者のことを「代表取締役社長」とか「CEO」とかなどと呼ばせない。
そんな金盞花が、学園の旧校舎になんて固執する必要はないはずだ。
「
「つまり遺産ってこと? おばあちゃん。あーむ」
まだヒナ鳥はるたんに、あたしはプリンを食べさせる。
「ええ。あなたは欲もないし、ユリ園ダンジョンがちょうどいいと思ったのよ」
「公私混同しすぎじゃないかしら?」
「だからいいのよ。その方が、このダンジョンを狙う生徒が増えるわ。嫉妬に狂ってね」
おおお。ムリヤリにでも、はるたんに戦わせるつもりなのか。
「晴子だって、既にできあがっているダンジョンなんて、欲しくないでしょ?」
「それはそうだけど」
言われてみれば、はるたんはアリモノで満足するタイプじゃない。
「ウチはダンジョン自体が、欲しくないのよ」
「金盞花最強の魔術師と言われているあなたなら、ダンジョンなんてもらってもうれしくないかもだけど。でもダンジョンはいいわよ。引きこもっているだけで、お金になるから」
「アパートの管理人でも、ちゃんと仕事はあるわよ。警備やお掃除、荷物預かり、クレーマーの対応とか」
はるたんが、『賃貸の管理者は楽』という幻想をブチ壊した。実際はるたんはそう思っていて、調べに調べた結果わかったことである。
たしかに、結構やることが多いんだよねえ。
「レイアウトはあなたの好きにしていいわ。私だって、好きに使っていたし。自分のお部屋だと思って、使ってちょうだい」
「ほーい」
じゃあさっそく、お掃除するか。
「そりゃそりゃー」
お茶の時間を終えて、あたしは旧校舎にモップをかけまくる。
はるたんはエレメントを召喚して、窓や天井を拭く。手の届かない場所を掃除するのに、エレメント召喚は楽だ。
校長は庭に出て、ユリの手入れをしている。
ややくすみ気味だった旧校舎は、輝きを取り戻した。とても、ダンジョンには見えない。
「では、ダンジョンコアを授与します。晴子、これであなたはダンジョンのマスターよ」
校長室の引き出しから、校長が赤い球体を取り出す。あたしたちの前に、球体を差し出した。
これが、ダンジョンコアか。
赤いコアを、はるたんは受け取った。
はるたんの手の中に、球体が吸い込まれていく。
バーコードのような線が、はるたんの手に刻まれた。
「それが、ダンジョンの証明書になるわ」
「えっと、質問があるんだけど。適任者が現れたら、譲渡してもいいのよね?」
「いいわよ。適任者がいれば」
「探すわ。ソイツにダンジョンを管理してもらいつつ、ウチらは他校のダンジョンを回るから」
「それでOKよ。では正式に、ダンジョン部を再始動します」
あたしたちは校長に、「よろしくおねがいします」と頭を下げる。
翌日、我が校のダンジョンに第一お客さん方が現れた。
「モモ。さっそく、練習試合の相手が来たね」
「なんだかんだいって、はるたんもうれしそうじゃね?」
「うっさい。ささ、さっさと蹴散らすよー」
ピンク色の制服を着た女子生徒たちを、あたしたちは招き入れる。
「ごきげんよう。金盞花学園に、ダンジョン部が再設立されたとお聞きしました」
その女子生徒は体つきこそ人間だが、まぶたがなかった。ヘビのように。
「わたくしはラミア族が集う、巳柳高校ダンジョン部代表、二年の『
世界中に出現したのは、ダンジョンだけではない。モンスターも、地球にやってきたのである。
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