捜査委員 城戸鷹千代  〜幻想隔離学園 ウォルンタース

るかじま・いらみ

第1話 捜査委員

 西洋の古い城のような建物だった。

 とても荘厳で、広大で、巨大な建物だ。

 これが学園だというから驚く。

 中高合わせて生徒数5000人を越える、超マンモス校。

 その名を『ウォルンタース』。

 ここは閉ざされた空間で、基本的に自由な出入りはできない。

 誰が呼んだか『隔離学園』。

 現実から隔離された人たちが集まる、幻想の世界にたたずむ学園。



 ——夕方。

 閉ざされた世界にも夕焼けはある。

 オレンジ色に染まる校舎から、一人の男子生徒が出てきた。

 背は高いが、下を向く猫背。

 灰をかぶったかのような色のボサボサの髪。

 険のある目。


 『城戸鷹千代(きど・たかちよ)』。


 それが彼の名前であった。


 校舎を出て、正門に向かって歩く。

 広い校庭には周りを取り囲むように、摩訶不思議な木々が植えられている。

 道をかたどる花壇には、現世では見ないような奇妙な花が咲いている。

 季節を感じさせないそんな景色を横目でながめながら、城戸は足を進めた。

 十分ほども歩いてようやく正門が見えてきた。

 顔を上げて、目当ての人影を探す。

 正門近くで立っていた女子生徒が、くるっと顔を向けた。


 城戸が小さく「お待たせ」と言うと、女子生徒は手をひらひら振って明るく「行きましょ」と答えた。



 二人連れだって学生寮のほうへ歩く。

 その女子生徒の名は『本読紗夜子(ほんよみ・さよこ』といった。

 城戸と本読は同じ捜査委員で、これまで何度もいっしょに行動している。


「先生が言ってたけど、今日のはひどい現場だってな」


「そうらしいわね。ほんと、この学園は治安悪いわ」


 空想と現実が入り交じるこの世界で、法はあまり意味をなさない。

 何か事件が起これば、警察の代わりに調査をする。それが、二人が学園から命じられた役割だった。


 突然、何もないところで城戸がつまづいた。

 吸い寄せられるように本読のほうへ倒れかかり、あわてて身をひねって避ける。

 転びそうになり、両手でバランスをとった。

 その一見わざとらしい滑稽なさまを見て、本読がくすりと笑った。


「なあに、その病気まだ治ってないの?」


「うるさい……」


 本読は微笑みを向けた。


「遠慮なくわたしに寄りかかったらいいのに」


「そういうわけにはいかない」


「いつでも頼っていいんだからね」


 城戸はそれには答えず、目を伏せた。

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