二丁目スナックさいかわ 狐編

　ママ、ジンライムいただけます？　あと、例の青じそチーズハムカツ。夏だしさっぱりしたものが食べたくて！

　……あっ、こんばんは！　初めましてですかね？　最近この店にお世話になってる者です。ほら、そこの惣山さん……から紹介されて。

　あっ、違います！　あの人が勝手に叔母を名乗ってるだけで、血の繋がりも無い他人です！　秘蔵っ子とかでもないです！！

　それにしても、ここのスナックは面白い店ですよね。お客さん同士の仲が良くて、みんな積極的にガンガン話しかけてる。ママとかオーナーの人柄が良いのは勿論なんですけど、活気がある店はそれだけで楽しい。何人かは他の店で会ったことある人も居ますし！

　……若く見える？　というか、現に若造ですよ。お酒だって最近飲むようになったし、経験だけならここに居るみなさんの方がずっとあるかもしれない。だから、その分で好きな味の偏りはあるかもしれませんね。

　カクテル、好きなんですよ。割材によってお酒の味とか香りが変わるし、味が難しいお酒も飲みやすくしてくれる。

　純度の高いストレートとかロックが好きな人には物足りないかもしれませんけど、カクテルの作り方だって難しいんですよ？　割材次第で味が変わるということは、適切なバランスで何を入れるかが重要になってくる。小説も同じかもしれませんね。

　それでいうと、今回の賞はロックやストレートのような小説が多い印象を受けました。じっくり時間をかけて味わう作品や、逆にショットで一気飲みするような作品。夏の夜は暑くて短いから、色々なお酒を飲めるのは嬉しいですね！

　エンタメ作品はカクテルと似てるんですよ。度数の強い題材をスルスル読むことができる魔力がある。気付かないうちに酩酊して知らない世界に連れていってくれたり、違和感がアクセントになって次に進みたくなったりする。

　だからといって何でもかんでも混ぜていいわけじゃないのが、エンタメの難しさかもしれませんね。最後まで読み進めてもらうためには、一口目のスムーズさがとても大事だと思います。

　題材選びとそれに合う文体、展開と構造。これが上手い人の作品は、ジャンルを文学にしても面白いものができるのではないでしょうか。

　次はXYZをいただこうかな？　今夜はこれで終わり、なんて意味もあるらしいですね。

　……僕の名前ですか？　「狐」、なんて名乗ってます。次にお会いする時のために、名前だけでも覚えて帰ってもらえたら！