【連載版】幼馴染みエルフの見た目が幼女(ロリ)すぎる! ~同い年のロリエルフから結婚前提でベタつかれてます~

英 慈尊

高校入学の朝

 まるで、空にそびえるような……。

 あるいは、天を貫くかのような……。

 全長三百メートルを超える巨木が佇む光景というのは、あまりに雄大で……人間というものの矮小さを否が応でも重い知らせる。


 しかも、スカイツリー完成をもってようやく人造物が高さを超えることに成功したその樹は、花を付けていた。

 真珠に、わずかばかりの朱色を混ぜたかのようなはかなくも可愛らしい花々が、遥か天空から俺たちを見下ろし、時折、散った花弁を地上に落としているのである。


 ――天空桜。


 西暦にして、一五〇〇年前後。日本の暦に直すと、天文――戦国時代に、突如としてこの世界へ姿を現した巨大樹がこいつだ。

 次元を超えた別世界からやって来た人知を越えし植物……。

 それがもたらした影響については、歴史の教科書を読んだ方が早いだろう。

 今でも、特撮や映画の舞台として引っ張りだこだしな。

 先日も、あの樹を舞台とした最終決戦シーンを撮影するために、ハリウッドのアクションスターが訪れたばかりであった。


 とはいえ、ここ天桜テンオウ市で生まれ育った人間にとっては、それこそ生まれた時から目にしてきた日常風景である。

 今さら、よその県や国から来た人みたいに、その威容へ感動することはないと思っていたのだが……。


「今日の天空桜は、格別だな」


 寝間着にしているジャージ姿のままベランダに出て、我知らずそうつぶやく。

 寝起きの爽快感と共に見上げる巨大桜の姿は、言葉通り――別格。

 今日の俺たちを、祝福してくれているかのような……。

 そんな、慈愛の念すら感じられる咲き誇りぶりであった。

 この俺が、柄にもなくそんな錯覚をしてしまうのも、無理はないだろう。

 何故かって? 答えは単純。


「高校入学の朝に見上げるっていうのが、またいい」


 そう、本日は公立天桜テンオウ高校の入学式。

 俺たち新入生が、めでたく高校生となるその日である。

 高校生といえば、人生で最も青春に満ちた期間……。

 これからの三年間に思いを馳せた俺が、早寝したとはいえ興奮のあまり早起きし、見慣れた天空桜を見上げながら感傷に浸るのも当然のことであるといえた。


 にしても、本当に見事な咲きっぷりだ。


「まだまだ登校までは時間があるし、コーヒーでも淹れて天空桜を肴に一杯……。

 なんていうのも、シャレてるかもしれないな」


 そのように思い付き、早速、実行に移すべく部屋の入り口へ体を向ける。

 背後で、ガラリというガラスドアの開く音が響いたのはその時だ。


「ダイちゃん!

 おっはよー!」


 同時に、ダンッ……! という、ベランダのフェンスから跳び上がった音。

 ……ベランダのフェンスから跳び上がった音?


「――ちょっ!? おまっ!?」


 慌てて振り向き、何かを受け止めるように腕を広げた。

 すると、そいつは……まるで飼い主へ飛びつく小型犬のように俺の胸元へと飛び込んできたのである。


「――ぐうおっ!?」


 とはいえ、本当に小型犬が飛び込んできたわけではない。

 少なくとも、三十キロ以上はあるだろう人間がそうしてきたのだ。

 しかも、ドテッ腹に頭突きするような形で、だ。


「ごほっ!? ごほっ!?」


 何とか抱き止めることには成功したものの、内臓へダメージを受けた俺はむせ返ることとなった。


「おはよ! おはよ! おはよ!」


 一方、朝っぱらから痛烈な一撃を見舞ってきた下手人は、さらにダメージを深めたいのか、抱き留められながらグリグリと頭を押し付けてくる。


「……だあっ!?

 壊れたレコーダーかお前は!?

 というか、人に向かって飛び込んでくるんじゃねえ!」


 これ以上、内臓を傷めつけらてはかなわない。

 隣家のベランダ越しに跳躍してきたおバカを引き剥がした俺は、そう言って抗議した。


「だってー。

 ダイちゃんなら、必ず受け止めてくれるでしょ?」


 そう言いながらニパッと笑ってくるのは、幼馴染みとしての贔屓を差し置いてなお、美少女と断言できる女の子である。

 腰まで伸ばされた黄金の髪は、ツーサイドアップで結わえられており……。

 顔立ちは、猫科の幼獣を思わせる愛らしさだ。

 深い海を思わせる瞳は大きく、ぱちりとしていて……見ていると、吸い込まれそうな神秘性すら感じられた。


「それに、わたしの制服姿、一番に見てもらいたかったし!」


 そう言いながら、くるりと回ってみせた彼女が着ているのは、天桜高校の制服。

 ややクラシカルなセーラー服は、しかし、長年に渡って愛されてきただけのことはあり、素材の魅力を十二分に引き出していると思えた。

 残念ながら、今履いているのはベランダ用のウサギさんスリッパであるが、学校指定のローファーを履けば、さらにその魅力は増すことであろう。


「どう? かわいい?」


「ああ、もちろんかわいいさ。

 何なら、世界一かわいいぞ」


「でへへ……」


 俺の言葉に、彼女が大げさな身振りで照れてみせる。

 そんな仕草も――カワイイ!

 世界一、という俺の評は決して大げさじゃないだろう。


 ただし……。

 ただし、だ。


 ちんまい。

 確か、中学生最後の身体測定ではようやく身長140センチを超えたと自慢していたが、それは同年代の身長としては、ぶっちぎりの最底辺であった。


 何故、彼女がこんなにもちみっこいのか……。

 それは、別段発育が悪いからではない。

 むしろ、彼女の種族から考えると、平均以上の発育ぶりであるのだという……。


 ああ、そうそう。

 彼女の特徴について、ひとつだけ触れ忘れていることがあった。

 俺はその特徴――ナイフのように鋭く尖った耳を両手で掴み上げる。


「でもな……。

 お前の制服姿は、中学卒業してから毎日のように見せられてるし、人に空中タックルしてくる理由にはな・ら・な・い・ん・だ・よ!」


「いたたたたたっ!?

 痛いっ! 痛いっ!

 エルフの耳を引っ張るのは反則だよーっ!」


 俺に耳を引っ張られた彼女が、そう言って抗議してきた。

 そう……。

 隣の家同士に生まれた同い年……。

 幼い時から見知ってきた間柄……。

 そんな幼馴染みは、世にも珍しいエルフだったのである。


「まったく……。

 せっかく、天空桜を見て風流な気分へ浸ってたっていうのに……。

 お前のせいで台無しだぞ? アイコ」


「風流なんてガラじゃないくせにー」


 手を離してやると、涙目になりながら長い耳をさすったアイコが、そう言って口を尖らせた。


「柄じゃなくても、そういう気分になる時はあるさ。

 大体、お前こそあの桜を見て何か思うところはないのか?

 お爺ちゃんたち、天空桜と一緒にこっちの世界へ来たんだろ?」


 そうなのだ。

 戦国時代の最中、突如としてこの世界に姿を現したのは、あの巨大な桜の樹だけではなかったのである。

 同時に渡り来たのが、別の世界であの桜を守ってきた種族……。

 すなわち、エルフなのであった。


 ちなみにだが、エルフは俺たち人間と比べて……。

 いや、地球上のあらゆる生命体と比べて、恐ろしく寿命が長い。

 今、話に出したアイコの祖父もバッチリご存命であるし、同時にこの世界へやって来た仲間のエルフたちも、今のところご健在である。

 まあ、だから、らしい。

 俺と同い年であるにも関わらず、アイコがこんなにもちみっこいのは。


「んー?

 特に思うところはないかなー。

 今日も綺麗だとは思うけど」


 そんなチビッ子は、見た目通りのガキっぽい感想を漏らしながら、偉大なる御神木を見上げた。

 はは。花より団子だ。


「それより、うちに来て一緒に朝ご飯食べようよ!

 昨日の晩はカレーだったから、それを温めるの!」


「へえ、そいつはいいな」


 俺とて、食べ盛りの男子高校生である。

 一晩寝かせた朝カレーというのは大ご馳走なので、その提案には目を輝かせた。


「よっしゃ。

 すぐに顔洗って着替えるぜ!」


「うん、待ってるからねー」


 そう言ったアイコが、再びベランダからベランダへと跳躍し、自分の部屋へと戻っていく。


「あ、そうだ」


 と、思いきや、くるりとこちらを振り向いたのである。


「ん……ちゅ!」


 それから繰り出してきたのは、投げキッスだ。


「……ふん」


 が、そんなものを受け取る義務はなく、俺は見えざるキスビームを拳で打ち払う。


「あー! ひっどい!

 婚約者の投げキッスを撃ち落とした!」


「いやいや、いつ婚約したよ」


 文句を言うアイコに脱力しながら問いかけると、ロリエルフはきょとんとした顔で首をかしげた。


「だって、小さい頃に結婚の約束をした恋人同士でしょ?

 なら、婚約者じゃないの?」


「……どうかな。

 それより、朝飯だ。

 俺は準備してくる」


「あー! はぐらかした!」


 背後の声には構わず、自室へ戻ってカーテンを閉める。

 そうなのだ。

 隣の家同士へ同じ年に生まれ、幼稚園、小学校、中学校、そしてこれからは高校と、何をするにも一緒な幼馴染みの女の子……。

 そんなアイコと俺とは、幼い頃に結婚を約束した間柄だった。



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