あかるい”かいじん”おうさつけいかく
しがないきょうそ
第1話 ポリコレに配慮した導入
「だから!我々女性にもフィニッシャーの役割を与えるべきではないんですか!?時代は男女同権ですよ、男女同権!」
がんがんと机を殴りながら喚き散らし、きぃきぃと甲高く怪人のトドメを自分に刺させろと鳴き喚く女の甲高い声が事務所に響き渡っている。
「いや、そうは言ってもねぇ」
短く刈り上げた髪をした、この場に不釣り合いのスーツ姿の中年男性が、泣きそうな目をしながら何とか女をなだめようと取り繕っている。
「わかってくれたまえ。我々とで入ったばかりの、それもまだうら若き乙女である君にこの十字架を背負わせるのは気が引けるというかだねぇ・・・。」
「戦闘では私も他の男性メンバーと同水準の戦績を挙げています!なぜ私だけフィニッシャーをやらせていただけないのですか!」
ーあの女、うすぎたないオルレアンの気狂い女の英雄譚にでもあてられたのか?
もぐもぐと唐揚げを頬張りながら、青色の隊服を着込んた後輩に小声で尋ねて。
ー先輩、世間一般ではそういうのを「インスタ映えでも狙ってるのか?」と表現するんですよ。だいたい何だってそんなジャンヌ・ダルクを毛嫌いしてるんですか。前世英国紳士か何かですか?
妹さんの手作りのおにぎりを平らげながら、へらへらと後輩がツッコミを入れる。
ーあの女に関してはちゃんと聖人認定して名誉回復もしたでしょう。あの女をバカにするのは大いに結構ですが、私たちの信仰まで愚弄するのはやめてもらっていいですか?
黒色の戦闘服に身を包んだ金髪の同僚が、サンドイッチを頬張りながら苦言を呈した。
眼前の女がたとい怪人に捕獲されて火炙りになったとしても、オレもコイツらも秒で忘れるだろうし、どんな出しゃばりな教皇が現れたとて、いちいちこんな馬鹿ーもとい、有象無象を聖人認定するなんて数奇な真似をする事はないであろう。
ーああいう自分本位で自己中心的な手会いに限って、女を代表してモノを申してるなんて口振りで喚き立てるのは古今東西変わらないって事なのかな。
ぼりぼりとプロテインバーを齧りながら、黄色い戦闘服を着込んだお団子頭の女が苦笑いでそう漏らした。
ーフィニッシャー。隊員同士で協力し、瀕死の状態になった怪人相手に、適当な口上で傾いて回り、トドメの一撃をお見舞いする。戦闘員の花形とも言える立ち位置ーああ。「少なくとも表向きには」間違いなく戦隊の花形さ!オルレアンの気狂いのような精神構造をした浅ましい馬鹿どもにはさぞかし美しく見えるだろうな!とっとと地獄でジャンヌと戯れてこいこの邪悪な淫売め。
口の中には吐瀉物の如き虫酸が広がり、嘔吐きを堪えながら口の中の唐揚げをお茶で胃袋に流し込む。
吐き気がする。承認欲求を拗らせた眼前のバカ女にも、口の中では舌なめずりをしながら「打ち上げ花火」の勘定をする狸親父に対しても。
ーそして、コイツの命を使った花火で怪人の命を幾つ削れるかにばかり思いを巡らせている、自分自身に対しても。
千葉中央地区第七防衛隊隊長であるオレは、燃え尽きる線香花火を見守る幼子のような息遣いで静かに、とにかく静かに鼻から溜息を漏らした。
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