『機巧人形:マシンドール』でも、幼い頃から一緒に居れば幼馴染と言えますか?

3pu (旧名 睡眠が足りない人)

プロローグ


「……と………くださ……。なか……おきて……」


暗闇に包まれた世界で、突然聞き慣れた声が聞こえる。

 感情の起伏が感じられない無機質な声。

 それを知覚した瞬間、暗闇に包まれた俺の世界が一気に明るくなった。


「……うぅん?」


 重たい少し瞼を開けると、銀髪の美少女がこちらを覗きこんでくる。


仲人なかと、仲人起きてください。このままでは三分八秒遅れて登校することになります」

「…………そうか。なら、まだ寝れるな」


 

 三分程度ならば問題ない。

 いつも学校に着くのはSHRが始まる二十分前。

 後、二分、いや七分寝ても十分間に合う。

 昨日はいつもより遅くまでゲームをしていたせいで、まだ眠い。

 だから、後もう少し。

 俺は再び重くなった瞼を、ゆっくりと閉じる。

 そして、そのままもう一度意識を手放そうとすると、頬に柔らかな感触が触れ、その後すぐ激痛が走った。


「本日は朝会のため、いつもより一〇分早く行かなければならないため見過ごせません。速やかに起きてください」

「痛ただだだっ!いふぁい、いふぁい。わふぁった。おひる、おひたから!ふぁなして!まふぃ!」

 

 痛みによって完全に目が覚めた俺は、舞姫まきに頬をつねるのを止めるよう必死で訴えると、すぐにつねるのを止めてくれた。


「いててっ。二度寝しようした俺が完全に悪いのは分かっているが、もう少し穏やかに起こしてくれませんかね?舞姫さん」


 つねられた頬を撫でながら、俺は舞姫に不満をぶつける。

 いや、殴られてたり乗っかたりされてとかよりはマシなんだけどさ。

 頬をつねられるのも十分痛いので、止めて欲しい。


「拒否します。これが最も効率よく起こせると、長年のデータで判明していますから。もし止めて欲しいのであれば、これ以上に効率の良い方法の提示を求めます」

「……ないです」


 舞姫にこれより確実に起きる方法があればと言われ、考えてたみたが何も思い浮かばず俺の起こし方はこのままとなった。

 

「仲人。起きたなら下の階へ行きますよ。仲人のお母様が朝食を用意していますから」

「うぃー」


そう言って、部屋を出て行く舞姫の後を俺はトボトボとゆっくり付いていく。

 リビングに入ると、母の姿は既になく朝食が二人分置いてあった。

 俺と舞姫はお互い向かい合うように座る。


「「いただきます」」


食前の言葉を口にし、箸を取り先ずは味噌汁を啜る。


「はぁ〜染みるわ。うまうま。舞姫。醤油取って」

「はい、どうぞ」

「サンキュー」


舞姫から醤油を受け取り、白身魚に醤油をかけ食べる。

 美味い。朝からこんな美味い飯を作ってくれた母に感謝だ。

 そこから、言葉はなく黙々と二人で朝食を食べ、あっという間に完食した。


「仲人。洗い物は私がしておきますから。着替えて来てください」

「あぁ、分かった」


舞姫のお言葉に甘え、俺は自分の部屋に戻り制服に着替え顔を洗って歯を磨く。

 そうしていると、隣に舞姫が並び同じように歯を磨き始めた。

 ──人間臭くなったよな。

 歯を磨いている舞姫の姿を見ながら、そんなことを思う。

 昔の舞姫は、機巧人形マシンドールである彼女には体を全て綺麗に保つ自動メンテナンス機能が備わっているからと、歯磨きなんて全くしていなかった。

 実際にそれで、口も臭くないし虫歯にならない綺麗な歯のままだったので本当に羨ましかったのを覚えている。

 だが、そんな舞姫が小学生のある時を境に突然歯を磨いたりするようになった。

 何が理由かは本当に覚えていないけど。

 まぁ、そんなわけで歯を磨いていなかった頃の舞姫を知っている身としては、感慨深いものがあるということだ。


「なふぃか?」


ボケーっと、そんなことを考えながら俺が舞姫の顔を眺めていたからだろう。

 彼女は不思議そうに首を傾げる。


「なんれもねぇ」

「そうれふか」


何でもないと分かると、興味を失ったのか舞姫は前を向き歯磨きを再開した。

 その後、二分ほど入念に磨きかわりばんこで口を濯ぐと、荷物を持って玄関に向かう。


「じゃあ、行くか」

「はい。…仲人少し待ってください」

「ん?」


 家を出ようとしていたところで、舞姫に呼び止められ振り向くと髪を優しくすかれる。


「寝癖がありました」

「マジか。サンキュ。一応全部治したはずなんだけどな」

「おそらく、まだ寝惚けてたんでしょう。これでよしです。行きましょう。仲人」


そう言って、舞姫は俺の横を通り過ぎ家を出て行く。俺は舞姫に触れたところを撫でながら、ゆっくりとその後を追った。




「よう、仲人。今日も学校一の美少女である機本きもとさんと一緒に登校したんだって?」


 学校に着き、自分の机に荷物を置いたところで友人の山口やまぐちに声を掛けられた。


「あぁ、そうだが。どうした?」

「いやね、本当にお前ら付き合ってねぇのかなって?」

「前も言ったろ。付き合ってねぇって」

「そうは言ってるけどさー。機本さんがお前以外の男と話してるところマジで見たことないんだよな。どんなイケメンからの告白も袖にするし、そうじゃねぇと説明がつかねぇんだわ」

「そうじゃなくても説明がつくだろ。顔が好みじゃないとか、性格重視だとか、同性好きだとか今のご時世色々ある」


 イケメンだから確実に付き合えるなんて考えは、漫画やラノベ、アニメの世界だけだ。

 現実はイケメンでも性格が悪かったら嫌われるし、普通に振られる。

 世の中そんなに甘くはない。


「えっ、お前もしかして同性好きだから、機本さんと付き合わねぇのか?」

「馬鹿。俺は普通に異性が好きだ」

「それだと。ますます分からん。あの男なら一度はむしゃぶりつきたい悩殺ボディだぞ。付き合いたいと思わんのか?やっぱ、あれか。長い間一緒にいるだから恋愛対象に見れないとか、そういうやつか?」

「まぁ、そんな感じだな」


 俺は山口の質問に対して曖昧な答えを返し、話を早々に終わらせ、鞄に入っている教科書を机に仕舞っていく。

 その間に、さっき山口との会話で引っかかったことを考える。

 ──幼馴染か。

 

 幼馴染。それは幼いときに親しくしていたこと。また、その人のこと。


 確かに、側から見れば俺と舞姫の関係は幼馴染という言葉がピッタリ当てはまるだろう。

 だが、

 もし、


 果たして、機巧人形でも幼い頃から一緒にいれば幼馴染と言えるのだろうか?


 俺はこの問いに対する答えを未だずっと出さないでいる。

 

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