第18話「羊と犬と少女の牧歌」
秋風が吹き始めたある日、テラは家族に新しい決断を告げました。
「みんな、これからうちでも羊を飼おうと思うんだ」
その言葉に、リリィは目を丸くして驚きました。
「わあ! 本当? でも、羊の世話って大変じゃないの?」
テラは優しく微笑んで答えます。
「そうだね。だから、羊の世話を手伝ってくれる仲間も迎えることにしたんだ」
「仲間?」
リリィが首を傾げると、フローラが説明を加えました。
「牧羊犬のことよ。羊を誘導したり、守ったりするのを手伝ってくれる賢い犬たちなの」
その言葉を聞いた瞬間、リリィの顔が輝きました。
「わあ! 犬が来るの? やったー!」
翌日、テラは村から少し離れた場所にある牧場から、二匹の牧羊犬を連れて帰ってきました。一匹は黒と白の毛並みが美しいボーダーコリー、もう一匹は短い足とかわいらしい顔立ちのウェルシュコーギーです。
「リリィ、こっちおいで。新しい家族だ」
テラの呼びかけに、リリィは興奮気味に駆け寄りました。
「かわいい!」
リリィは思わず二匹を抱きしめようとしましたが、犬たちは少し警戒した様子です。
「ゆっくりね、リリィ。彼らもまだ慣れていないから」
フローラが優しく諭します。リリィは深呼吸をして、そっと手を差し出しました。
「こんにちは。私はリリィ。これからよろしくね」
犬たちは慎重にリリィの手の匂いを嗅ぎ、やがてゆっくりと尻尾を振り始めました。
「よかった。気に入ってくれたみたいだね」
テラが嬉しそうに言います。
「ねえ、この子たちの名前は?」
リリィが尋ねると、テラは首を振りました。
「まだないんだ。リリィが付けてあげたらどうかな?」
その言葉に、リリィの目が輝きました。
「本当に? やったー! えっと……」
リリィは真剣な顔で考え込みます。しばらくして、顔を上げました。
「ボーダーコリーは『ムーン』、コーギーは『サニー』はどう?」
「いいね。とても似合ってる」
「月と太陽で二匹一組……とっても素敵だわ」
テラとフローラが頷くと、フローラも賛成の意を示しました。
「ムーン! サニー! これからよろしくね!」
リリィは嬉しそうに二匹の名前を呼びます。
犬たちも、自分の名前を呼ばれて嬉しそうです。
それからというもの、リリィは毎日ムーンとサニーと遊ぶようになりました。庭を走り回ったり、ボール遊びをしたり、時には一緒にお昼寝をしたりと、すっかり仲良しになっています。
ある日、テラはそんなリリィたちの様子を見て、苦笑いしながら声をかけました。
「おいおい、リリィ。その子たちには羊を御すという大事な仕事があるんだぞ」
でも、その口調はまんざらでもない様子です。
「わかってるよ、パパ! でも、仕事の前にまずは友達にならないとね」
リリィの返事に、テラは思わず笑ってしまいました。
「そうだな。じゃあ、明日から本格的に羊の世話を始めようか」
翌日、テラはリリィとムーン、サニーを連れて、新しく用意した羊の牧場へと向かいました。そこには十数頭の羊が、のんびりと草を食んでいます。
「さあ、リリィ。ムーンとサニーに指示を出してごらん」
テラの言葉に、リリィは少し緊張した様子で頷きました。
「う、うん。ムーン、サニー、あの羊たちを向こうの木の方に連れていって!」
リリィの声に反応して、二匹の犬が動き出します。
ムーンは素早く羊の群れの外側を回り込み、サニーは低い姿勢で羊たちの足元を見つめます。
「すごい! ちゃんと動いてる!」
リリィは驚きの声を上げました。
羊たちは、二匹の犬に誘導されるままに、ゆっくりと指定された方向へ移動していきます。
「よくできたね、リリィ。君も立派な羊飼いになれそうだ」
テラが誇らしげに言いました。
「えへへ、楽しいな! もっとやってみたい!」
リリィは目を輝かせながら、再び二匹の犬に指示を出します。
「ムーン、サニー、今度はあっちの丘の方に連れていって!」
犬たちは従順にリリィの指示に従い、羊の群れを新しい方向へ誘導し始めました。リリィは、まるで踊るように軽やかに犬たちと一緒に動き回ります。
秋の穏やかな日差しの中、羊と犬と少女が織りなす牧歌的な風景が、のどかな丘の上に広がっていきました。テラはその様子を見守りながら、心の中でつぶやきます。
(ムーンもサニーも羊さんも可愛い……こんな平和な光景を見られるなんて、あたし本当に幸せだな……)
風に乗って、羊の鳴き声と犬の吠え声、そしてリリィの楽しそうな笑い声が、牧場いっぱいに響き渡っていきました。
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