第16話:春の恵みと家族の幸せ

 朝もやが晴れ始めた頃、リリィは両親と共に畑へと向かいました。

 今日は待ちに待った春野菜の収穫日です。


「わあ! キャベツがこんなに大きくなってる!」


 リリィは目を丸くして、青々としたキャベツを見つめました。


「そうだね。みんなで大切に育てたからね」


 テラが優しく微笑みかけます。


「さあ、収穫を始めましょう」


 フローラの声に、三人は畑に散らばりました。


 リリィは慎重にキャベツに手を伸ばします。根元をしっかりと掴み、ゆっくりと引き抜くと……。


「うわっ、重い!?」


 思わぬ重さに、リリィは尻もちをつきそうになります。


「気をつけてね、リリィ」


 フローラが心配そうに声をかけました。


「大丈夫! こんなの、へっちゃらだよ!」


 リリィは元気よく返事をすると、大きなキャベツを抱えて運び始めました。


 次はレタスの収穫です。みずみずしい葉が朝日に輝いています。


「ねえ、パパ。レタスってキャベツと何が違うの?」


「そうだなあ。レタスの方が葉が柔らかくて、サラダに向いているんだ」


 テラは丁寧にレタスを収穫しながら説明します。


「へえ……。自然ってすごいね。同じ畑なのに、こんなに違う野菜が育つんだ」


 リリィの言葉に、両親は嬉しそうに顔を見合わせました。


 最後はホウレンソウです。濃い緑色の葉が、風に揺られてさらさらと音を立てています。


「ホウレンソウは葉っぱだけを摘むのよ」


 フローラがリリィに教えます。


「うん! 優しく摘むんだね」


 リリィは慎重に、でも確実にホウレンソウの葉を摘んでいきます。


 収穫を終えた三人は、畑全体を見渡しました。


「本当にたくさん採れたね」


 テラが満足そうに言います。


「うん! みんなでお世話したかいがあったね」


 リリィは誇らしげに胸を張りました。


「さあ、野菜たちに感謝しながら、お家に帰りましょう」


 フローラの言葉に、三人は深々と畑に向かって頭を下げました。



 家に戻ると、フローラとリリィは早速収穫した野菜を使って料理を始めることにしました。


「リリィ、野菜を洗うのを手伝ってくれる?」


「うん! 任せて、ママ」


 リリィは張り切って台所に立ちます。シンクに水を張り、優しく野菜を洗っていきます。土の香りが台所いっぱいに広がります。


「ねえ、ママ。今日の夕ご飯は何を作るの?」


 リリィが好奇心いっぱいの目で尋ねました。


「そうねえ。ロールキャベツ、レタスのサラダ、それにホウレンソウのおひたしはどうかしら」


「わあ、おいしそう!」


 リリィは目を輝かせました。フローラはエプロンをリリィに渡し、リリィは嬉しそうにそれを身につけました。


「まずは、キャベツの芯を取り除いて……」


 フローラの指示に従って、リリィは慎重にキャベツの葉を剥がしていきます。大きな葉を丁寧に外していく様子は、まるで宝物を取り出すかのようです。


「次は、ひき肉を他の具材とよく混ぜ合わせるのよ」


 リリィは真剣な表情で、ボウルの中の具材を混ぜ合わせます。小さな手で一生懸命こねる姿に、フローラは優しい眼差しを向けます。


「すごい! 上手にできたわね、リリィ」


 フローラが褒めると、リリィは嬉しそうに頬を赤らめました。


 レタスのサラダは、リリィが葉を手でちぎる係を担当します。新鮮なレタスの葉がちぎれる音が、キッチンに心地よく響きます。


「葉っぱがシャキシャキって音がするね」


「そうね。新鮮な証拠よ」


 二人で楽しく会話を交わしながら、料理は進んでいきます。トマトを小さく切り、ドレッシングを作る様子も、まるで小さな魔法使いのようです。


 最後にホウレンソウのおひたしを作ります。鍋にお湯を沸かし、ホウレンソウを茹でる様子をリリィは興味深そうに見つめています。


「ホウレンソウはね、茹でると小さくなるのよ」


「え? どうして?」


「茹でると水分と栄養少しが抜けるからなの。だからあと茹で汁もちゃんと使うのよ」


「へえ……」


 リリィは感心したように頷きました。茹であがったホウレンソウを冷水にさらし、手で優しく絞る作業も、リリィは慎重に行います。


 程なくして、テラが台所に顔を出します。


「いい匂いだね。もうすぐ出来上がり?」


「あと少しよ。テーブルの準備をお願いできる?」


「もちろん」


 テラは笑顔で応えました。


 やがて、春野菜を使った料理の数々が食卓に並びます。ふんわりとしたロールキャベツ、みずみずしいレタスとトマトのサラダ、鮮やかな緑のホウレンソウのおひたし。どれも色鮮やかで、食欲をそそります。そこに村一番のパン屋さん「麦の香り」で評判のロールパンを添えました。


「わあ、すごい! 本当に美味しそう!」


 リリィは目を輝かせて、出来上がった料理を見つめました。


「さあ、みんなで頂きましょう」


 フローラが優しく微笑みかけます。


 三人は、テーブルを囲んで座りました。


「いただきます」


 声を揃えて挨拶をすると、リリィは早速ロールキャベツにフォークを入れました。


「あつっ……でも、美味しい!」


 リリィの素直な感想に、テラとフローラは笑顔を交わします。


「本当だね。キャベツの甘みが引き立ってるよ」


 テラも満足そうにロールキャベツを頬張ります。


「レタスのサラダも、シャキシャキして美味しいわ」


 フローラがサラダを口に運びます。


「ホウレンソウのおひたしは、ちょっと苦いけど……でも、なんだか元気が出る味!」


 リリィは少し顔をしかめながらも、一生懸命に食べています。


「そうね。苦みの中にも栄養がたっぷり詰まってるのよ」


 フローラが優しく説明します。


 食事が進むにつれ、家族三人の会話も弾んでいきます。


「今日の収穫、本当に楽しかったな」


「うん! 野菜たちが大きく育ってるのを見て、びっくりしたよ」


「そうね。自然の力って、本当にすごいわ」


 リリィは口いっぱいに野菜を頬張りながら、ふと考え込みました。


「ねえ、パパ、ママ。私たち、幸せだよね」


 突然のリリィの言葉に、テラとフローラは少し驚いた表情を見せます。


「どうしたの、急に?」


「だって……こんな美味しい野菜を育てて、みんなで食べられるんだもん。それって、すごく幸せなことだと思うの」


 リリィの言葉に、両親は深く頷きました。


「そうだね、リリィ。私たちは本当に幸せ者だよ。当たり前に想えることが本当の幸せなんだ」


 テラが優しく微笑みます。


「これからも、この感謝の気持ちを忘れないようにね、リリィ」

「うん!」


 フローラがリリィの頭を優しく撫でました。


 窓の外では、夕暮れの空が美しく染まり始めています。家族三人の幸せな時間が、静かに、でも確かに流れていきました。

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