【TS転生スローライフ】孤独な傭兵から転生したら、両親から溺愛されるとっても幸せなスローライフ少女になれました!

藍埜佑(あいのたすく)

第1話「死の砂漠から生命(いのち)の園(フィールド)へ」

 灼熱の砂漠に、銃声が鳴り響いた。


「くそっ!」


 ジェイムズ・コナーは咄嗟に身を翻した。砂塵が舞い上がる中、彼は素早く岩陰に身を隠す。荒い息遣いが聞こえる。額から流れ落ちる汗が目に入り、視界がぼやける。


「どこだ……? どこにいやがる?」


 手榴弾のピンを引き抜き、ゆっくりとレバーを離す。数秒後、ジェイムズは手榴弾を投げ出した。


「くらえ!」


 轟音と共に砂煙が立ち上る。敵の悲鳴が聞こえた。


「やった……!」


 ほっと息をつく間もなく、背後から鋭い痛みが走る。


「な……に……?」


 振り向くと、そこには仲間だと思っていた男がいた。その男の手には、まだ煙の立ち上る銃が握られていた。


「なぜだ……オマール……?」


 オマールは冷たい目でジェイムズを見下ろす。


「金のためさ、ジェイムズ。知らねえだろうが、お前の首には高い懸賞金がかかっているんだ」


 ジェイムズの視界が徐々に暗くなっていく。

 砂に倒れ込みながら、彼は自分の人生を思い返していた。


 幼い頃に受けた虐待。逃げ出した先の児童養護施設。

 そして、行き着いた先がこの傭兵だった。

 人を傷つけ、そして人を殺めることで生きてきた自分。

 そんな人生に、どれほどの意味があったというのだろう?


「ああ……くそ……くそだぜ、こんな人生……俺の人生は……俺の人生は、まったく無意味だった……!」


 最後の言葉と共に、ジェイムズの意識は闇の中へと沈んでいった。


 ……しかし、ジェイムズは突然、光を感じた。


(今度は間違えないようにね)


 どこかでそう囁く優しい女神の声が聴こえたような気がした……。



「おぎゃあ! おぎゃあ!」


 赤ん坊の産声が部屋に響き渡る。


「よく頑張りました! 元気な女の子ですよ」


 産婆の声が聞こえる。

 ジェイムズは混乱していた。

 なぜ自分はまだ意識があるのか?

 なぜ赤ん坊の泣き声が聞こえるのか?


「あら、なんて可愛い子……!」


 優しい女性の声。

 そして、暖かい腕に抱かれる感覚。

 ジェイムズは、いや、今や赤ん坊となった彼……彼女は、目の前にいる女性を見上げた。


「ようこそ。私たちのもとへ来てくれてありがとうね、リリィ」


 母親の目には涙が光っていた。

 その隣には、誇らしげな表情を浮かべる父親の姿があった。


(これは……もしかして……転生……?)


 リリィとなった彼女は、困惑しながらもその状況を理解しようとしていた。そして、両親の腕の中で感じる温もりに、これまで経験したことのない感覚が胸の奥底から湧き上がってきた。


(こんな……暖かさ……初めてだ……俺は……俺は……)


 リリィの目から、小さな涙がこぼれ落ちた。


「あら、泣いちゃった? 大丈夫よ、ママがここにいるわ」


 母親は優しくリリィを抱きしめ、額にそっとキスをした。

 父親も寄り添い、家族三人で抱き合う。


(なんて温かいんだ……これが……これが……家族なのか……)


 リリィは、両親の無条件の愛に包まれながら、前世では決して知ることのなかった幸せを感じていた。


「大切に育てようね、あなた」


「ああ、きっと世界で一番幸せな子に育つさ」


 両親の言葉に、リリィは小さな手を伸ばした。

 その小さな指が、母親の指をぎゅっと握る。


(ここが……俺の……いや、私の居場所なんだ)


 リリィは、新しい人生の始まりを感じていた。

 前世の苦しみや後悔は、両親の愛情の中で少しずつ溶けていくようだった。


 窓の外では、鳥のさえずりが聞こえる。

 新しい命の誕生を祝福するかのように、穏やかな風が吹き抜けていった。


 リリィの新しい人生が、こうして始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る