第70話 言いたいことを言わない愛
遥々太平洋を渡ってアメリカまでやってきた父の日記。
真奈の父は日記の中で、自分が発する言葉が自分及び自分の周辺の人々にどんな影響を与えるかを前もって考えることの大切さを語っていた。
一度は死の谷をさ迷った父だけに、2度目の人生おいて、「真に賢く生きる」とはどういうことなのかをより深く考慮していた人だったのだ。
ある時真奈の父が教えていた大学で、自殺を図ろうとしていた学生がいた。その学生の母親から大学に電話が入った。若きその青年に淡々と話しかけることで自殺を思い留まらせた学生部長。それが、他ならぬ真奈美の父だったことも驚きではなかった。
また、真奈美の父は元新聞記者として、誰よりも言葉が放つ危険性までもよく心得ていた。
言って分かる相手かどうかを判断した上で、本人に直接伝えるべきか、それとも、その人がもっと多くの人生経験をした頃に伝えるべきかを決めていたということが、父の日記を読むことで真奈は明確に読み取れた。
父は日記の中で、自分の子供達が様々な生き方にぶち当たる先々でも、彼らの父として多くの疑問を抱いていたことを物語っていた。
「今はまだ持ち出しても、ただ反抗するだけで、何の効果もないであろう」と判断した場合には、毎日のようにペンを取ることで、自分の中のネガな思いや若い人々へのお説教を全て日記という媒体の中で吐き出すことでうまく処理していたのだった。
それは誰にでもできることではなかった。
真奈美の父ならではの「言いたいことを言わない愛」によって強く支えられた行為に他ならなかったのだ。
真奈美は、正に「太平洋を渡った父の日記」を読むまで、自分がそんな尊い愛に包まれていたことさえ気付いていなかった。
To be continued...
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