Q:異世界転生？すれば力も金も友達も手に入って、毎日良い感じに過ごせるって本当ですか？A:そんな訳ない。消えろ。

第1話 異世界転生？転移？on the moon

　空は快晴。

　これほど良い天気なだけあって、近くの窓からは町が隅から隅まで良く見える。

　校門付近には制服姿の生徒達が、遠くの駅ではサラリーマン達が、それぞれ目的地に向けて黙々と歩く。

　それを四階、生徒会長室から見下ろすのが！

　この俺！「大空（おおぞら）　千晴（ちはる）」だ！！

　いえい！ピース！

　「会長、文化祭の企画書の進行状況はどうですか？もうすぐ一時間目が始まりますよ」

　俺から見て、斜め右前に座る少女は会計。

　同じ高校一年生なのに、何故か敬語を使ってくる謎な人だ。

　そして、この質問には最大限良い感じの声で、答える。

　「ああ。もう終わった」

　「流石です！生徒会長！」

　いえい！Vピース！

　そんな感じで賞賛される事が多くなったのが、生徒会長になって良かったことの一つだ。

　両親の期待に応え、前生徒会長の姉ちゃんと争ってまで得た甲斐があった。

　まあ、その仕事内容は相当多かったけど。

　理想の生徒会長をやるという目標も意識すると、本当に忙しい。

　今日も朝から文化祭の準備だし。

　なのに、何か今日は副会長と書記にサボられたし。

　大変だった。

　しかし！！褒められたからヨシ！

　頑張った甲斐がある。

　「でしたら、はやく片付けて教室へ向かいましょう！会長！」

　会計が俺を急かしてくる。

　だが、四階の窓から外を見下ろすと言う日課が終わっていなかった。

　これをすると両親に褒められた記憶がよぎり、良い気分になるのだ。

　窓へかなり近づかないと見えない花壇には、花が咲き誇っている。

　目を凝らさなければ見えない電柱の周りには、すずめ達が飛び回っている。

　何もせずとも目の前に広がる大空には、前傾姿勢で、こちらへ向かってくる飛行機の姿が見える。

　飛行機？

　？。

　「？。あの飛行機。見た事ないぐらいに低空飛行じゃない？」

　「本当ですね。この辺りに空港なんてないのに」

　飛行機はキィィィという爆音を放ちながら、俺達の方へ飛んで来る。

　このままだと、学校にぶつかりそう。

　「この角度であのスピードだと、校舎に突っ込んで来ない？あれ」

　「会長の言う通りですね、計算すると、••••え、え、え！！？え！え！！えええええ！！！」

　会計から飛行機の音をかき消すレベルの爆音が発せられる。

　この声で、現実感が一気に湧いてきた。

　飛行機は後五秒ぐらいでここに突っ込んで来そうだ。

　「不味い！！死ぬ！！！」

　これだけ飛行機が近いと、急いで階段降りても死ぬ！

　窓から逃げるしかない！

　バリィンと窓の割れる音と共に、一人で四階から飛び降りた。

　受け身もとって、下の花壇に着地するつもりだ。

　「ぐほ、」

　直後花壇の土にぶつかった衝撃が、全身に広がる。

　何とか花壇に落ちることが出来た。

　落下の衝撃で少し体が痺れる。

　そのしびれを無視して、校庭へ走る

　走る！！

　走る！！

　「あ、来た」

　背後で、とんでもない爆発音が聞こえた。

　すぐ、砂煙と熱に包まれた。

　暫くし、砂煙が明ける。

　そうして、校舎が見えた。

　校舎の下部には、飛行機が突き刺さっている。

　これが発火源になったのか、校舎全体も火に包まれていた。

　かなり、地獄の光景だった。

　「姉ちゃんも学校にいたのに••••」

　ぽつりと口から言葉が出る。

　校舎から上がる火も、校庭の真ん中ぐらいにいる俺が熱く感じるぐらいには、強かった。

　この状況では、校舎内の生存者など望むべくもない。

　ついでに、頑張って取った良い成績も、立場も、作った書類も、全部燃えている。

　余りのショックに、何か冷静になって来た。

　果たして、この事故の合計死者数は何人なのだろうか。

　いや、それより。

　よく見ると、校舎の上部が校庭の方へゆっくり倒れてきていた。

　これを受けたら、今度こそ死んでしまう。

　「•••••••他の事は生き残ってから考える！俺だけでも生き残れば！！両親も不幸中の幸いって思ってくれるはず！！」

　無理やり気合いをいれる。

　校門へ全力で走り出す。

　走る！！

　走る！！

　上から何か熱い物が近づいてくる。

　全力で！！走る！！

　熱いものがもう至近距離に！

　より全力で走る！！

　もうこっちが校門から出る方が早い！！

　「飛び込みセーーー—」

　急に、青い光に包まれた。

——

　「ぶへぇぇぇぇ！！！」

　顔面スライディングで、白く凸凹した地面を滑っていく。

　だが、全く顔は痛くなかった。

　結構して、ようやく止まる。

　摩擦が余りないのか、相当な距離を進んでいた。

　だが、体には一切傷もなく、制服も綺麗なままである。

　摩訶不思議だ。

　こんな空間でとりあえず立ち上がり、周りを見渡す。

　「？。地球？」

　真っ暗な闇の中に、青い地球が浮かぶ。

　そんなまるで月から地球を見ているかのような光景が、目の前にはあった。

　こんな景色は、余りに美しい。

　所で、俺は助かったのだろうか。

　落ちてくる校舎からは絶対逃げ切れたはずだ。

　けれど、変な所に来てしまった。

　更にこれは夢でもない。

　今頰を抓ってみたら、普通に痛かった。

　もしや死に際で瞬間移動でも出来るようになったのだろうか。

　便利だ。やったね。

　「違ーーう！！私がこの場所に連れてきたの！！」

　突如現れた女性が、笑顔で話しかけてくる。

　誰だろう。

　「え！？？この顔！見覚えない！！？折角大空さんの親族などに顔を似せているのに！！似てないかな！？？」

　確かに母さんや姉ちゃん、会計などの面影を感じる。

　だが、それ以上に気になる所がある。

　この人は、全裸だった。

　完全にやばい方である。

　「神に服なんて要らないでしょ。そんな事より！！大空さんに謝りたいことがあるの！！」

　色々謎な点ばかり。

　そんな人が何を謝りたいのかは、ちょっと気になった。

　「ごめーーん！！大空さん！！あなたの事を！殺しちゃった！！！」

　？。

　？？？

　？？？？？。

　「間違えて！死の運命にないあなたをここに連れて来ちゃった！！ごめんね！！大空さん！！」

　？？？。

　どういう事？

　死なないはずだった俺がこいつに殺されたらしい。

　本当に？

　助かったはずだったのに？

　こいつのせいで、両親が二人の子供を失った事にもなるの？

　何か、やばい気持ちが溢れそうになる。

　「落ち着いて！大空さん！お姉さんは生きているから！！！」

　こいつはすぐこう答える。

　？。

　「？。あの惨状でどうやって？」

　「ちょちょちょっと異世界へ送って！それで大空さんも同じ世界に行って貰うから！！」

　「？。？？？？」

　？？？？。

　異世界とは。

　何故俺達を行かせる必要があるんだろう。

　「私は！死んだ人間の一部を異世界で蘇生しているの！！今回、大空さんとお姉さんは選ばれた！その他にもあの飛行機事故で死んだ一部は蘇っているよ！！」

　それは果たして、それは生きていると言えるのだろうか。

　死んでないか。

　というか、こいつの言う事は本当なのかな。

　しかし、明らかに謎のパワーを持つこいつが俺に嘘をつく理由もない気がする。

　けれど、信じるのも少し。

　••••。

　「説明するよ！大空さんが行く異世界は！魔力が存在する世界！そこには！魔法や魔獣も実在する！！私があなた達にするのは魔力と能力をあげるだけ！異世界では何をしようが構わない！！」

　こいつは聞いてもいないのに、笑顔で異世界について話し始める。

　そうして、俺の困惑を他所に、また口を開いた。

　「でも！！貴方だけは特別！！あの時生きのびる予定だったのに！私のせいで死んじゃった！！だから何か一つだけ！！どんな願いも叶えてあげる！！！だけど！願いの回数を増やす系は駄目だよ！！！」

　「？••••？。本当に？それなら、ありがたいです」

　これが真実なら、一応全てを取り戻せる。

　俺と姉ちゃんを元の世界で蘇生させてもらうこともできるし。

　それが出来る能力を持って、元の世界に戻ることも出来る。

　やったね。

　ギリギリやったね。

　「ごめん！！それは無理！！！死んだ人間は決して蘇らない！！！それ以外で！！！」

　「••••という事は、俺はニ度と元の世界に戻ることは出来ないんですか？」

　俺はゆっくり聞いてみる。

　すると、こいつは頭を下げた。

　「だからごめん！！！！だから願いも叶えてあげているの！！」

　「••••••••それなら、俺と姉ちゃんが違う世界で生きているという証拠を、両親に送って欲しいです」

　••••もしこいつが言った事が本当ならば、もう取り返しが付かない。

　さっきも、何でも願いを叶えると微妙に嘘をつかれていたが。

　ならば、少しでも良い感じでいられるようにしたい。

　俺も家族も。

　これが一番だ。

　「はい！！そう言うと思っていたよ！！！じゃあ！とりあえずここに立っていてね！写真を撮るから！！」

　いつの間にか、こいつはカメラを持って、俺の正面に立っていた。

　そしてそのシャッターボタンを今にも押そうとしている。

　「ちょ、ちょ！待って！やるにしてもポーズ考えるから！！」

　「はい、ポーズ！」

　パシャという音が、俺に届く。

　と同時に、現像した写真を持ったこいつが俺の横に現れる。

　こいつは写真を俺に見せてきた。

　そこには、ただピースをしているだけの俺が映っていた。

　元気さの証明として、良い感じのジャンプしながらポーズをしようと思ったのに。

　「少し気になるんですけど、この写真でどうやって俺が生きている証拠になるんですか？」

　「そこはちょちょっと細工して！！後でお姉さんの写真も撮るから安心して！！大空さん！！」

　こいつ、さっきから色々ちょちょっとって誤魔化している気がする。

　多分心を読んでいるのに。

　その思いを知ってか知らずか、こいつは俺の方に近づいてくる。

　「これで終わり！！だから！大空さんには異世界に行ってもらうね！！！」

　「、どう行くんですか？来た時みたいに瞬間移動で？」

　俺は少し後退する。

　しかし、それ以上のスピードでこいつは俺の方へ近づいてくる。

　何だこいつ。

　突然こいつは、俺の背後に現れた。

　その上、俺の肩と腰を抑える。

　「大空さんを！！あの青い星に投げる！！！大丈夫！！気づいたら到着しているから！！！安心してね！！」

　「？？。は？」

　こいつは一切の躊躇なく、俺を抱きかかえる。

　追加で、こいつは手と膝を曲げた。

　完全に投げる体勢だ。

　「ほい！！！！」

　そのまま、こいつによって俺は投げられた。

　白い台地から徐々に離れていく。

　だが、こいつは俺に手を振って来ていた。

　「異世界！良い感じに過ごせたらいいね！ついでに！大空さんを誘導する為に一つ嘘をついちゃった！ごめんね！！！」

　「？？？？？」

　　意識が薄れていく••••