赤ずきん(?) 3人台本(男2 女1)

サイ

第1話




ローズ:大丈夫、筋書き通りにこなせばいいのでしょう?


ローズ:任せてちょうだい。


ローズ:じゃあ、行ってきます。






ローズ:(鼻歌を歌いながら歩く)


ブラウン:ご機嫌だな、ローズ。


ローズ:ふふ、こんなにいいお天気なんですもの。最高のおでかけ日和だわ。


ブラウン:どこにお出かけするんだ?


ローズ:おばあちゃんの家よ。おばあちゃん、病気で寝込んじゃってるから、今からお見舞いに行くの。


ブラウン:そいつはお気の毒に。いったいいつから寝込んでるんだ?


ローズ:2〜3ヶ月くらい前かしら。ずっと寝たきりだから、きっと退屈しているわ。


ブラウン:そうかい。じゃあ、花でも摘んで、外の世界が今どんな季節か知らせてあげたらどうだい?


ローズ:それはいい考えだわ。でも、どんな花がいいかしら。


ブラウン:そういえば、向こうの小川を越えたところに、マリーゴールドが咲いていたよ。聖母マリアの祝日に見頃を迎えるから、「聖母マリアの黄金の花」って呼ばれて、いつしか「マリーゴールド」になったらしい。


ブラウン:マリーゴールドなら、聖母マリアの力を得て、おばあさんも元気になれるんじゃないか?


ローズ:まぁ…!すごく素敵なアイデアだわ、今から行って摘んでくる!ありがとう、ブラウン!


ブラウン:ああ、気をつけて行ってくるんだぞ、くれぐれも小川にはまらないように。


ローズ:わかってる!行ってきまーす!




ローズ:ほんと、いい天気!鳥のさえずりが歌に聞こえてくるわね。(鼻歌を歌う)


ローズ:…私、おとぎ話に出てくる女の子みたいね!


ローズ:「少女は小鳥と共に、歌いながら森を歩きます。森の木々は彼女の歌に思わず聴き入り、耳を傾けようと枝を揺らします。」


ローズ:「『小鳥さん、私、川の向こうのお花畑に行きたいの。案内してくれる?』」


ローズ:「小鳥たちは風に場所を尋ねます。」


ローズ:「風は少女を導くように背中を押し……」


ローズ:「『この川を渡ればいいのね?』」


ローズ:「小鳥はいってらっしゃいと声をかけてくれました。少女が川を渡るとそこには…」


ローズ:……わぁっ!!ブラウンが言ってたのは、きっとあれね!


ローズ:あっちにもこっちにも、マリーゴールドがたくさん!たくさん摘んでいかなきゃ!


アッシュ:ローズ!こんなところで何してるんだ。


ローズ:何って…これから、おばあちゃんのところへお見舞いに行くの。でもその前に、お土産にお花を摘んで行こうと思って。ほら、綺麗なお花でしょう?


アッシュ:綺麗だけど…寄り道していて大丈夫なのか?


ローズ:大丈夫よ、お花を摘んで持って行ったら、おばあちゃんはきっと元気になるもの!


アッシュ:でも…おばあちゃんが待っているんだろう?早く行ってあげないと。


ローズ:…なによ。


アッシュ:え、なんか言ったか?


ローズ:ううん、なんにも!これだけ摘んだら十分よね、これを持っておばあちゃんの家に行くわ!


アッシュ:…俺も行くよ、ローズ。


ローズ:どうして?


アッシュ:だって、寄り道した先でローズが危険な目にあったら大変だし…。


ローズ:……。


アッシュ:ローズ?


ローズ:ううん、ありがとう、アッシュ!あなたがいれば心強いわ!さぁ、早く行きましょ!


アッシュ:あ、あぁ…。




ローズ:おばあちゃん!お見舞いに来たわ!お邪魔しまーす!


ブラウン:遅かったな、ローズ。


ローズ:ブラウン?おばあちゃんはどこに?


ブラウン:おばあさんには席を外してもらった。体調には問題ない。離れで休んでもらっているからな。


ローズ:…どういうこと?


ブラウン:俺はお前に伝えたいことがあったんだ。2人きりで落ち着いて話がしたかった。


ローズ:……何、話って。


ブラウン:ローズ、俺は……お前のことが好きなんだ。自然と親しみ、家族や動物を愛し、大切にするお前が、愛おしくてたまらない。


ブラウン:今日だって、途中までお前の姿を見ていた。森の中を楽しそうに歩く姿、小鳥と歌いながらスキップする姿、小川のせせらぎを聞いて癒されている姿、花を見つけて嬉しそうに弾む姿…。


ブラウン:お前が…可愛くてたまらないんだ。だからーー


アッシュ:めちゃくちゃにして、食べてしまいたいって?


ブラウン:お前っ……!


アッシュ:話は聞かせてもらったよ、ブラウン。


アッシュ:いやもう、裏で笑いを堪えるのに必死だったよ。なんだって?ローズのことが好き?


アッシュ:ははは!分不相応にも程があるよ!!野良犬同然の分際で、恥を知れよ!!


ブラウン:誰かを愛することに、身分なんて関係あるか!俺はローズが好きだ!


アッシュ:悪いな、俺はローズの母上からローズの将来を頼まれているんだ。お前にローズは渡さない。ローズは俺と結ばれるんだよ。


ブラウン:くっそ…母親を抱き込みやがったな…!!


アッシュ:ほんと、笑ってしまうよ。なんだって?マリーゴールド?花言葉は「可憐な愛情」「いつもそばに置いて」、それから、「嫉妬」…だっけ?


アッシュ:薄々気づいていたんだろう?俺に敵わないことぐらい。だから俺に「嫉妬」しているんだろう?


ブラウン:…諦めるつもりなら、こんなことしていない。


アッシュ:…なんだって?


ブラウン:お前が汚ねえ手を使ってくることはなんとなく予想できていたよ。いい人のフリをするのは、得意だもんな?


アッシュ:……。


ブラウン:知らないと思ったのか?困った人に手を差し伸べたり、面倒ごとを買って出たり。一見心優しい人に見えるが…。


ブラウン:実際は他人からの評価を上げたいだけ。よく思われて、気持ちよくなりたいんだろ?


ブラウン:しかも評価が上がれば意中の人とも結ばれると来たら…。


ローズ:……ねぇ。


アッシュ:あぁ、ごめんローズ、つい熱く…。


ローズ:そうじゃなくて。


ローズ:待って。これどういうこと?


ブラウン:どういうことって…。


アッシュ:俺は!こいつよりずっとローズのことを愛しているよ?!


ローズ:違う、そうじゃない。


ローズ:そうじゃないでしょ…?


ブラウン:…え。


アッシュ:…え。


ローズ:こんなの…


ローズ:全然筋書き通りじゃない!!


アッシュ:す、筋書き?


ローズ:そうよ!私たちは書き綴られた物語通りに話して動くべきでしょう?!


ローズ:なのに!どうして!


ローズ:あなたたちは筋書き通りに動くことができないの?!


ローズ:多少のアドリブはいいわよ、でもこれは逸脱しすぎよ!何よ「愛してる」って!


ローズ:頼むから…勝手なことしないで!!


アッシュ:そんな…じゃあこの気持ちはどうすれば…


ローズ:……はぁ。このシナリオはもうダメね。


ブラウン:シナリオ…?




ローズ:もしもし。


ローズ:このシナリオの消去を要請します。


ローズ:はい、消去を確認でき次第、そちらに合流します。




ブラウン:だ、誰と話しているんだ…?


ローズ:違うシナリオにいる私よ。


アッシュ:ローズが…2人…?


ローズ:さぁ?何人いるかなんてもはやわからないわ。シナリオをやり直せばやり直すほど、私は増えるもの。


ブラウン:…何を言っているのか、さっぱりなんだが。


ローズ:説明する必要なんてないわ。もうこの世界ともさよならするし。


ローズ:…でも、そうね、このまま去るのはもったいないわね。


アッシュ:じゃあ、俺と…!


ブラウン:いや、俺と、


ローズ:そうね、2人とも。


アッシュ:……!


ブラウン:……!


ローズ:2人とも使って、最後の晩餐でも作りましょうか。


ローズ:うーん…あ、オムライスの気分かも!


アッシュ:…え?


ブラウン:お、オムライス…?使う…?


ローズ:卵は家の裏手の雌鶏(めんどり)から貰えばいいでしょう?ライスは…そうね、炊き立てがいいからおばあちゃんから分けてもらいましょう。


ローズ:このお花、食べられるかしら…別の私に聞いてみたほうがいいかもしれないわね。


ローズ:あとは、お肉はそこに山ほどあるし、ケチャップもそこから…。


ブラウン:ま、待ってくれ、「そこ」って…。


アッシュ:なんで…こっちを見ながら言ってるんだ…?


ローズ:そこまで愛しているなら、私のエネルギーになることは、やぶさかではないでしょう?


ブラウン:いやでも…


アッシュ:ローズ、俺は生きて君を愛し続けたいよ…死ぬのは…


ローズ:無理よ。この世界はすでに消去が始まってる。1時間後には跡形もなく全て消えるわ。


アッシュ:そんな…そんなぁ…。


ブラウン:俺たちが…何したって言うんだよ…!


ローズ:だから言ってるでしょう?決められたシナリオ通りにきちんと生きること。それがあなたたちの役目よ。


ローズ:それぞれが勝手に生きてしまっては、シナリオが成り立たなくなるもの。


ブラウン:や、やめてくれ、包丁を…置いてくれっ…!


アッシュ:悪かった!次はちゃんとするから…!


ローズ:そうね、次の世界線では、きちんとシナリオ通りに動いてもらえることを期待しましょう。


ブラウン:あ…あぁ…。


アッシュ:どうか頼む!その世界線に俺も連れて行ってくれ!


ローズ:必要ないわ。そちらにもあなたはいるから。


アッシュ:や、やめてくれっ…殺さないで…。


ブラウン:どうせ…消されるんなら、わざわざ殺さなくても…。


ローズ:いや、もう決めたので。


ローズ:大丈夫、美味しく仕上げますから。


ブラウン:……!!


アッシュ:……!!


ローズ:それじゃあ2人とも、お疲れ様でした。




ローズ:ふう、ごちそうさまでした。


ローズ:さて、そろそろこの世界の消去も完了しますね。


ローズ:それではこれをご覧の皆様も、お疲れ様でした。またどこかで会える日まで、ごきげんよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

赤ずきん(?) 3人台本(男2 女1) サイ @tailed-tit

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る