色彩に歌い舞う、白き瞳の花嫁 —火に灯る心—

葛西藤乃

序章

庭先で少女が舞う。まだ、五つにも満たない娘だが、一目その舞を拝観すれば、誰もが虜となる。


「綺麗な歌と舞だな」


自分より年上の少年に声をかけられた少女は振り返るが、慌てて眼を隠す。なぜなら、少女は自身の眼を気持ち悪く思っていたから。


だが、刹那さえあれば、少年の眼には少女の眼の色がわかった。


「歌舞も綺麗だが、純白の瞳も美しい。何故、隠す?」


少年の問いに、少女は首を傾げた。そんなことを言う人間は今までいなかった上に、唯一褒めてくれた母とは引き離されたから。


少女はそのことをぽつりぽつり話す。


「わたしもいずれははさまのように、がんりょうとしてかくりされる。それが、こわい」


「……だったら、俺の色深しの顔料になってくれないか」


「えっ……」


「そしたら、色々な所へ連れて行く。好きな物も与える。その瞳を含めて大切にする。だから、約束だ。いずれ、迎えに来る」


今日、初めて会った相手。名前も知らない。


だが、殿方で初めて自分の白い瞳を褒めてくれた人。


少女は深く考えず、指切りをした。


「うん。やくそく」


あまりにも幼いが故。その少年との会話は忘れてしまったが、火のような赤だけは鮮明に記憶に残る。それほど、美しい色をしていた。

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