第9話 初めての夜


「ほら、キアもおいで」

「でも、フィー。いいの……?身体は」


「キアのお陰かな。薬草も、鶏肉も美味しかった」

ちゃんとした薬草を煎じたからか、フィーは昼間よりも顔色がいい。


「それは良かったわ!また狩ってくるから任せてね!」

今度はどんな食材が獲れるかしら。栄養があって、美味しいものならなおのことよしよね。


「……うん、でも一番は……」

フィーが優しく私の手を引く。そんな……優しくされたらむげに振りほどけないわよ。

私もフィーに続き、ベッドの上に上がれば、フィーが嬉しそうに私を抱き寄せる。


「あぁ……嬉しいなぁ。キアがこんなに近くにいる」

まるでひどく待ち遠しかったかのように、私を見つめるのだ……。


「その……私はフィーの妃になるのでしょう……?そりゃぁ……近くにはいるわよ」

クエストに出ているときは近くとは行かないが。


「嬉しいよ。あのね、多分今日調子がいい一番の要因は……キアがいてくれるからだ」

「……えと……その……」


「キアが一緒にいてくれるなら、俺は明日も元気でいられるかもね」

「……そんなこと言われたら……」

ますます離れがたくなる。いや……追い出されない限りは、こんな好条件の住み込み先、みすみす捨てたりはしないが。

むしろ……私を抱き締めるフィーの腕が、そうさせてくれないだろう。


「今夜は隣で添い寝してくれる?」

「……わ、私でいいのなら」

フィーがとても嬉しそうな顔をするのだもの。その……フィーならきっと変なことはしないわよね。冒険者たちの雑魚寝や、リアたちの家でレナンたちとこたつを囲うのとも違う。

男性とふたり、夜のベッドの中。


寝静まる時間が近付いていると言うのに、私は全く寝静まれそうにない。


フィーの隣に寝そべれば、フィーが優しく髪を撫でてくる。


「その……緊張して寝られないから」

そんなにじっと見つめられたら……。


「……そう……?なら……」

フィーがそっと胸元に私を抱き締めてきたのだ。た、確かにこれだと、顔はフィーの胸元だし、フィーの熱い視線は気にならない……かしら……?それでも優しく見守られているような気はするのだけど……。


でもこれはこれで、違う緊張に襲われる~~っ!身体が、頬が、火照るのを感じる。それでもフィーの手は優しく私の髪を梳くのだ。


うとうとと心地よいリズムが刻まれそうな予感と、ドキドキと波打つような心臓の音がせめぎ合う。


うぅ……っ、明日寝不足になったらどうしようか……。ほれでもどこかここが、心地よいと感じるのも、事実である。




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