黄色いチューリップのカフェで出会ったのは、年上で不思議な彼女。少しずつ心が癒されていく物語

🦞🦞ロブスターパニック🦞🦞

第1話「運命のカフェ、黄色いチューリップ」

高校の放課後、黒羽大樹(くろば たいき)は、家への帰り道でふと立ち止まった。


通い慣れた道を歩いていると、いつもは気にも留めなかった小さなカフェが目に入ったのだ。


外観は、まるで絵本の1ページから飛び出してきたかのような温かみのある黄色い壁と、チューリップの花が描かれた看板が特徴的だった。


「こんな店あったっけ?」


大樹は看板に書かれた店名をつぶやく。


「黄色いチューリップ?」


自然と足が店の入り口に向かっていた。特に理由はなかった。ただ、何となくその場所に吸い寄せられるような感覚だった。


ドアを開けると、心地よいベルの音が鳴り響き、同時にコーヒーの香ばしい香りが鼻をくすぐった。店内は落ち着いた色調で統一され、木製のテーブルと椅子が温かみを感じさせる。カウンターが六席と、二人用テーブルが二脚あるだけだった。


すでにお客さんがいて、奥の二人用テーブルに高齢の女性が二人座っていた。


「いらっしゃいませ!」


明るく元気な声が響いた。その声の主に大樹が目を向けると、そこには黄色のエプロンを身に着けた女性が立っていた。ふんわりとした長い髪と、たれ目の笑顔が印象的だった。大学生だろうか? 年上であることは間違いなかった。


「初めてご来店ですよね? どうぞ、こちらへ」


大樹は彼女の言葉に促されるまま、一番奥の席に座った。彼は緊張しながら、メニューを手に取る。


「えーと……」


何を注文すべきか迷う彼に、再びその女性が声をかけた。


「もしよろしければ、当店のおすすめをご用意しましょうか?」


その優しい言葉と笑顔に、大樹は自然と頷いていた。


「それでお願いします」


言葉が口をついて出た自分に驚きつつ、大樹は彼女がカウンターに向かうのを見つめた。こんなにも自然に人と話せたのは久しぶりだった。


しばらくして、彼女がカプチーノを運んできた。「こちら、当店自慢のカプチーノです。どうぞごゆっくり」と彼女はにっこり微笑む。その顔はなんだか、ハムハムしていて、ハムスターを思い出した。


大樹はカップを持ち、一口飲んでみた。


「美味しい……」


思わず漏れた言葉に、彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「あはは。よかった。また何かあれば、遠慮なくお声掛けくださいね」


と言い残し、店の奥へと戻っていき、二人用テーブルに座っていた高齢女性との談笑に戻る。


大樹はその後、静かにカプチーノを飲みながら、店内の雰囲気を味わっていた。


彼女が常連客と思われる女性たちと楽しそうに会話を交わしているのを見て、なんだか自分もその輪に入りたいという気持ちが芽生えてくる。


「俺も……もっと話せたらいいのに」


そんな思いを胸に抱きつつ、カフェで過ごす時間があっという間に過ぎていった。


閉店が近づき、大樹はカフェを出る準備をした。レジで会計を済ませるために彼女に声をかけると、彼女はにこやかに「コーヒー美味しかったでしょ?」と聞いてきた。


「あ、はい。美味しかったです……」


あまりにもまっすぐに自分の目を見つめてくる彼女に、大樹はたじろいだ。

そんな大樹に対して、ハムスターみたいな女性はさらに明るい笑顔を見せた。


「嬉しいです!ぜひまたいらしてくださいね」

女性は名刺サイズのポイントカードを手渡してくれる。


大樹はそのカードを受け取り、胸ポケットにしまいながら店を後にした。店を出る前に、もう一度彼女の姿を見ようと振り返ると、彼女が他の客と楽しそうに話しているのが目に入った。


「また来よう……」


大樹は心の中でそう決意し、カフェを後にした。


自宅に帰り、部屋に入りベッドに寝ころぶ。夕飯まではまだ時間がある。


大樹はポイントカードを取り出し、じっと見つめた。

小さなカードには、カフェ「黄色いチューリップ」のロゴと、10個のスタンプ欄が描かれている。一つだけ埋まっているそのカードを見て、大樹はこれからのことを考えた。


「次はもっと話せるようにしたいな」


彼は心の中で自分にそう言い聞かせ、ベッドに横たわった。あのハムスターみたいな女性の笑顔が脳裏に浮かび、彼はそのまま静かに眠りについてしまう。


妹が部屋のドアをノックした。


「お兄ちゃん、ごはんだよ」


「わかった」


薄暗い部屋の中で大樹は「黄色いチューリップ」の看板を思い浮かべた。

明日行ってみよう。そう思ったら、大樹はくすっと笑顔になった。


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