モーゼ
@jiroushimada26
第1話
魔力を保有し魔術を行使することができるものは世界人口で見ればわずかだ。そのわずかの中にも犯罪者は生まれる。それを取り締まるのは警察であり、罪に対する判決を下すのは裁判大臣の仕事。
これは犯罪者を取り締まる警察の物語。
バルドは同僚の警察官と廃墟のそばで身を潜めていた。
この廃墟には”5人の魔術師で構成された密猟者グループがおり、拠点として活用している”という情報が上がり、真偽を確かめ捕縛するために駆け付けたのだ。
昨今、毛皮や愛玩動物としての価値が向上した生物が多く密猟は増加傾向にある。そのため、多くの密猟情報が警察庁に届けられる。多すぎるがゆえに誤った情報も届くが、ここに来るまでの違法な罠の数々を見るに今回は間違いないようだった。
扉を挟み込むように陣取る同僚がバルドにささやく。
「バルドは西側の出入口から突入しろ」
「はい」
バルドは後ろにいた同期に頼んだと頷いて静かに移動した。
ここで密猟者に気が付かれ逃げられては、犯罪行為を見逃し多くの生物の営みが崩壊することに繋がってしまう。
音を立てず配置についたバルドが隊長に報告をする。
「配置につきました」
『よし、5秒後に突入する』
「『『『はい』』』」
『カウント開始』
―5、4、3、2、1・・・
扉と壁を破壊する音と舞い上がる埃にまぎれ、バルド達は突入した。突入と同時に魔術攻防が始まり、爆音と怒声が廃墟を震わせる。
西出入口には敵が配備されておらずバルドは戦闘の緊張感を纏い周囲を警戒しながら合流地点に足を進めるた。戦闘が行われている場所に近づくにつれ、衝撃は強くなり壁に亀裂が入る。
3分が経過し徐々に攻防の音が減り、廃墟が軋む音が残った。
「報告!」
隊長からの通知が各隊員の通信器を震わせる。
「東クリア」
「北クリア」
「中央クリア」
戦闘をしていた隊員からの密猟者の捕縛を知らせる声が続く。
誰も死なずに任務は完遂された。バルドは詰まっていた息を吐き出し
「西クリア」
と報告を入れた。
「了解。バルドは周囲を確認し残党がいないか確認、中央に計画書のようなものがあるため各位集合せよ」
バルドは杖を握り直し、残党確認を開始する。
いくつかの部屋を確認し捕獲された生物が檻に閉じ込められていれば、開放する。中には密猟により傷を負い、弱った生物や命を落とした生物もいた。
「あとで自然に返してあげるから。もうしばらく待っていてね」
傷を負った生物には治癒魔術を、命を落とした生物には声をかけ、うっすらと戦闘の火の粉をくすぶらせている建屋内を進む。
中央に近づいたのか同僚の声がバルドに聞こえてくる。
「密猟計画には見えないな」
「これはエルロン家の血筋記録じゃないですか」
「密猟者ではなかったということか」
すべての部屋の確認を終えたバルドが中央の部屋に続く廊下に出ると、気が付いた同僚が呼んだ。
「バルド、こっちだ」
バルドが無事に合流できたことに安堵したとき、世界が白く弾けた。
目くらましの魔術かとバルドは考えたが、すぐに違うと気がついた。
この現象は周囲の魔力を瞬間的に一転に集中させ弾ける前のものであり、弾ければ周囲を吹き飛ばす威力を持っている。
つまり爆弾だ。
バルドは瞬時に防御魔術を展開するが、意味がないとわかっていた。防ぐことも退避することもできない。この魔力量の爆発は耐えられない。
―魔力が濃縮される高周波数の音が耳を突き刺す
(悔しいがここで死ぬしかないのか)
諦めかけたバルドの防御が強化された。圧縮点から目線をずらせば、バルドを呼んだ同僚が防御魔術をかけていた。
バルドは目を見開き、同僚に届かない手を伸ばす。
「先輩っ」
閃光弾のように色すら認識できない光が同僚達を突き刺し姿を飲みこみ、バルドも閃光とともに強い衝撃で飛ばされる。壁に強くぶつかり前も横もわからず、ただ落下するしかなかった。
爆風で飛ばされ何度もいろいろなものに激突し地面に倒れたバルドは生きていた。
倒れたバルドの前から建物が崩れる音と振動が伝わる。
(みんなは)
起き上がろうとするが指一本動かせずバルドの視界は暗転した。
目を覚まし見たのは、治癒師の顔だった。
バルドが目を覚ましたことで部屋は騒がしくなる。治癒師がバルドに体調や体について確認し、補助師もかけつけバルドの精神状態の確認をする。
(みんなも無事なんだろうか)
一通りの確認と処置が完了したところに、警察庁生物保護局長官メソンが入室する。バルドは敬礼しようとするが折れた腕は固定され動かすことができなかった。
「そのままで大丈夫だ」
「はっ」
メソンはバルドが一番知りたいことを教えた。
「バルド、貴官以外は殉死した」
「・・・・・・」
「何があったか話せるか」
「・・・はい」
バルドはあの廃墟で何があったのかを話した。
「密猟ではない計画書があったと?」
「そう聞こえました。自分は合流前だったので計画書自体は確認しておらず、話し声のみを聞きました」
「そうか、ほかに何か覚えていることはないか」
「エルロン家の血筋記録と言っていたと、あと」
バルドは会話以外の記憶を思い出した。防御魔法を自分に向かい張る同僚の手にあった書類に書かれたマークを。
「関係あるかわかりませんが」
「なんだ」
「書類にマークが描かれていました」
「マーク?どのようなものだ」
「なにか書くものはありますか」
「ここにある」
固定された腕の先にある指に鉛筆を握らせてもらい、バルドは記憶のマークを描いた。力が上手く入らず、ミミズが這ったような線だが形にはなっている。
「どこかで見たことが、いや、思い出せないな。一旦も持ち帰る」
「長官、あの」
「バルド」
「はい」
「貴官に落ち度はない。現場確認を行った者達からの報告を受けている。だが、気持ちの整理はつかないだろう。ゆっくり養生しなさい」
「、ありがとうございます」
メソンが退室した病室でバルドは天井をぼう、と眺める。
手を伸ばし助けてくれた同僚の顔が忘れられない。
爆心地に近く絶対に助からないとわかった同僚は覚悟を決めて、最後の賭けにでた。5m以上離れているバルドなら助かる可能性があると、
「絶対に無駄にしない。犯人を捕まえてやる」
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