ゴールデンウィーク 8-4

「お腹空いてないですか?」

「空いた」

「ちょっと待っててください」


 台所に行き今日買ったうどんを作り、持って行く。

「うどんだけど、食べれそうですか?」

「食べれない」


 一瞬固まる。

 食べやすいかと思って作ったが、もしかして嫌いだったか。

 自分で判断せず作る前に聞いておけば良かった。


 またしても勝手に判断し行動してしまったことに嫌気がさし、橘凜の顔を見るが当の本人はいたずらっ子のような顔をしてこちらを見て、クスクス笑っていた。

 初めて見るその表情に戸惑ったが冗談で言っていたことに安堵する。


「食べさせて」


 しかし安堵したのも束の間で今度は甘えているようで、こちらを試すような事を言ってくる。


 さすがに断ろうとしたが相手が体調不良で熱を出していることを思い出しやめた。

 どうしたもんかと逡巡したが意を決し、食べやすい量を箸で掴み橘凜の口に運ぶ。


 すると橘凜も抵抗することなく口を開き食べていく。

 ゆっくりとだが全て食べ終え、うどんと一緒に持ってきていたゼリーを渡す。


「これ食べれたら食べてください」

 今すぐという訳ではなかったが意外にもゼリーの蓋を開け、スプーンを取る。


 しかしそこで手が止まる。

「食べさせて」


 またしてもこちらをからかうような顔で薄らと笑みをうかべ言う。

 俺も考えるだけ無駄だと思い今度はためらうことなく、スプーンに適量掬い口に運ぶ。


 するとやはり何の抵抗もなく口を開き食べていく。

 うどんほど量もなかったので時間にしたら1分かかるかどうかだったが、妙に長く感じられた。


 「横になった方がいいんじゃないですか?」

 うどん、ゼリーを食べ終え時間を見ると18時を回っていて、寝る時間には早いと思ったが相手は病人なので体を休めた方がいいと問う。

 ――

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