強硬手段

コンコンコン!



「アリナ!」




「あ、はい!お母さん!」



「朗報です、アリナの結婚相手が決まりました。」



「ほんと!!!」


アリナの目は輝いていた。自分の未来があることへの喜びで心が満たされていたからだ。


毎日、毎日、運命の人、愛し合うことのできる人だけを待ち続けてそんな人が現れることだけを祈り続けた。

そうして本当に現れたのがオレリアンだった。アリナの理想、本命であり、初恋の相手。


手紙を送ってきて、さらには会いにまできてくれた。結婚相手はきっと彼しかいない。

オレリアンに対する気持ちは期待と共に十分に膨らんでいたのだ。


「相手はロブソンさんという、町1番のお金持ちに決まりました。ほら、そうと決まったら早く準備しなさい。今から車で城までお連れして、初めての面会ですよ。」




「え、ロブソンさん?ちょっと待ってお母さん、何言ってるの?」



「何って、相手が決まったんですよ?いいことでしょう。」



「いや、違くて、なんで?オレリアンさんは?わざわざ会いに来てくれたんだよ!それなのに、どうして?教えてお母さん。」



「………オレリアンさんは非常に貧しい方なんです。だから彼はあなたを愛してやまないのではなく、私たちが保有するお金を愛しているのです。それではきっとアリナが不幸せになってしまう。私はそれを見たくない。」



少しだけ空いたままの窓から水滴がポツポツと部屋に入ってくる。晴れだった空がいつのまにか冷たい雨空へと変わっていった。



「なんでよ………!わかんない私、だってお母さん、オレリアンさんに会ったことなんてないじゃん。私はあの人に会って、自分の考え方が変わったの。救われた、心から。」



「アリナ、母である私に牙を向けるの?」



「そんなつもりなんてないけど、でも私はオレリアンさんが好き。だってあの人は私のことを何よりも第一に考えてくれてた。私の顔を素敵だって顔を赤らめて言ってくれた………、そんな人を貧乏だからなんてつまらない理由で切り捨てないでよ!!」



「変な洗脳でもされたのかしら?いいから、こんな無駄な話はやめて早く行きましょう。」



「無駄じゃない、無駄なんかじゃない!私はオレリアンさんのことを第一に考える、彼が私にそうしてくれたように!」



「もう無駄です。オレリアンさんには私から直接、ご縁が無かったとの手紙を送りました。」



「そんな、、酷いよ。」



「酷いのはあなたですよアリナ。早く行くんです!!車に乗りなさい!」



「…………いやだ、私は絶対乗らないから!」


母は私を無理やり押さえ込み、車まで連れて行こうと強硬手段に踏み込んだ。



「これは2度とないチャンスなんです!ロブソンさんと結婚すれば絶対に幸せになる!」



「お母さんは私のことじゃなくて、一族のことしか考えてない!お金のための道具になんてなりたくないの!!」



「ちょっと、おとなしく………!」




「離して………離せっ!!」



グッ!!!!



「わっ!!やった!」



両腕を大きい力で抑えられていたが、なんとかその拘束を解き、アリナは廊下を走り出した。



「ちょっと待ちなさい!」



「あるはずよね、あの時の………」



アリナが目指したのは、廊下の1番奥にある部屋。その部屋こそ母が生活に使っている王室。アリナの狙いはその中にあるあの時の「被り物」だった。



「運命のはきっと、いや絶対!オレリアンさん!!!!」




アリナは被り物を頭につけ、顔を隠した状態で急いで部屋の近くにあった階段を駆け降りた。



「これなら住民にも絶対にバレないはず。絶対に会いに行く、オレリアンさん………!だからどうか、私のことをまだ好きでいて。」


アリナは城の大きな門をくぐり、多くの住民の波の中へと飛び込んだ。

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