第16話 七瀬 風花


夕飯の準備が整った頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。焚き火の赤い炎が小さなキャンプサイトを優しく照らし、静寂の中に薪がはぜる音だけが響いている。


「お待たせしました!今日の夕飯、完成です。こちらがボンゴレビアンコと、エビとマッシュルームのアヒージョです。」


俺は完成した料理をカメラに向けて披露した。湯気を立てるパスタと、オリーブオイルに浸ったアヒージョの鮮やかな見た目が画面に映し出されると、コメント欄が一気に盛り上がった。


▷「なんて美味しそうなの!」

▷「ゼロ様、料理まで完璧とか反則じゃない?」

▷「これってキャンプ料理なの? おしゃれすぎ!」

▷「1人で食べ切れるの?多くない?」


「キャンプだからといって、ただ焼くだけとかじゃもったいないですからね。こういうちょっとした工夫で、自然の中でも最高の食事が楽しめます。」


手に取ったパスタを一口すすると、アサリの旨味が口いっぱいに広がった。思わず満足そうに頷く。


「うん、これは自分で言うのもなんですが、かなり美味しいです。外で食べるから余計に味が引き立つんですよね。」


その後、アヒージョのエビをフォークで刺し、食べてみる。プリッとした食感とガーリックの香りが絶妙だ。


「これも間違いないですね。皆さんもぜひ試してみてください。」


視聴者からは次々と質問が寄せられる。

▷「その料理ってどうやって作るんですか?」

▷「キャンプ初心者でもできる?」

▷「ゼロ様が選んだ材料、こだわりがありそう!」


「ボンゴレビアンコは、家で作るのとほとんど変わりません。ただ、キャンプでは茹で汁の量や火力を気を付ける必要があります。アヒージョはもっと簡単で、オリーブオイルに具材を入れて弱火で煮るだけです。初心者でも挑戦しやすいのでおすすめですよ。」


質問に答えながら焚き火を囲んで食事を楽しむ時間は、思っていた以上にリラックスできるものだった。料理を一口食べるごとに、自然の中での贅沢さを改めて感じる。


「ところでキャンブ好きの皆さん、キャンプの何が好きですか?」


俺が問いかけると、視聴者からさまざまな答えが寄せられる。

▷「自然の中で過ごすのが最高!」

▷「焚き火を見てると癒される!」

▷「普段できない経験が楽しい!」


「確かに、焚き火はただ見てるだけでも心が落ち着きますよね。俺も昔からこれが好きでした。」


ふと、火の揺らめきを見つめると、視聴者とのつながりを強く感じる。こうやって配信を通じて自分の好きなことを共有できるのは、本当にありがたいことだ。


「皆さんが見てくれるおかげで、俺もこうやって好きなことを発信できてるんです。本当に感謝しています。」


コメント欄が「こちらこそありがとう!」や「これからも応援します!」といったメッセージで溢れ、画面越しにも温かさが伝わってくる。


食事を終えた後、焚き火の前で椅子に腰を下ろし、夜のキャンプならではの静けさを楽しむことにした。


「さて、ここからは少しリスナーさんの質問に答えながら、焚き火を眺めて過ごしましょう。」


配信画面に寄せられた質問を一つ一つ読み上げていく。


▷「ゼロ様の好きなアウトドアアイテムは何ですか?」

「うーん、やっぱり焚き火台かな。これ一つでキャンプの雰囲気が一気に変わるからおすすめです。」


▷「次回のキャンプはどんな場所でやりたいですか?」

「次はもう少し山奥の静かなところとか、湖の近くもいいですね。」


▷「一人キャンプって寂しくないですか?」

「一人でいるからこそ感じられる楽しさもあるんですよ。皆さんもぜひ挑戦してみてほしいです。」まあ1人では無いが


視聴者の反応を見ていると、どんどん話が弾んでいく。そんな中、ふと焚き火の向こう側で何かが動く気配を感じた。


「……?」


第16話 続き


焚き火の揺れる光の向こう、草むらがさっと揺れる音がした。風のせいかと思ったが、どうも違う。暗がりの中、視線を凝らすと、小さな人影が二つ、こちらに近づいてくるのが見えた。


「……誰かいる?」


警戒心を抱きながらも、配信中の手前、あまり慌てる素振りを見せたくなかった。コメント欄もざわつき始める。


▷「ゼロ様、大丈夫ですか!?」

▷「何か来てる!?」

▷「怖いんだけど!!」


「みなさん、ちょっと落ち着いてくださいね。きっと動物か何かだと思います。」


そう言いながらカメラを少し引いて全体を映し出す。しかし、影ははっきりと人型だった。そして、次の瞬間――


「ゼロ様ーーー!!!」


甲高い声が響き、焚き火の明かりに照らされた二人の女性が姿を現した。顔には明らかに興奮した様子が浮かんでおり、その目は俺をしっかりと捉えている。


「まさか、たまたま来ていたキャンプ場本物のゼロ様に会えるなんて!」

「いつも配信見てます!今日こそ直接お話したくて!」


どうやら熱心な視聴者らしい。だが、その勢いには少し圧倒される。コメント欄も騒然としている。


▷「え、リア凸(リアル凸撃)!?」

▷「ゼロ様に触れるな!!」

▷「護衛官は何してる!?」

慌てて俺はマイクをミュートにしてカメラを切る。


視聴者の言葉通り、俺には護衛官がいる。七瀬風花――冷静沈着で仕事に忠実な女性だ。彼女が何をしているのかと一瞬思ったが、その答えはすぐにわかった。


「何をしているのかしら?」


低い、けれど冷ややかな声が響き渡る。その声を聞くや否や、二人の女性はぎくりと体を硬直させた。背後から現れたのは七瀬風花だった。彼女は長い髪を軽く揺らしながら、毅然とした態度で女性たちの前に立ちふさがった。


「男性に無断で接近する行為は迷惑行為として厳しく取り締まられるべきですが、あなた方、それを理解していますか?」


風花の冷たい視線と鋭い言葉に、女性たちはしどろもどろになりながらも言い訳を始めた。


「そ、そんなつもりじゃなくて!」

「ただ、応援したくて……!」


「応援の方法は他にもあります。どうぞ、この場をお引き取りください。」


風花の毅然とした態度に押され、女性たちは不満そうな顔をしながらも渋々その場を立ち去っていった。


その間、俺は配信を一時的に中断していた。マイクをミュートにし、画面も消していたため、視聴者には詳細を伝えることはなかった。


「ごめんな、風花さん。助かったよ。」


二人が去った後、俺は配信を再開して視聴者に簡単な説明をした。


「少しトラブルがあったので、一旦配信を中断しました。今は問題ありませんので、続けていきますね。」


コメント欄も安堵の声で埋まった。


▷「ゼロ様、大丈夫そうで良かった!」

▷「護衛官さん、グッジョブ!」

▷「さすが護衛官さん、仕事が早い!」


配信を予定通り進め、最後に視聴者への感謝を伝えて配信を終えた。そして風花に近づき、今日作った料理を差し出した。


「これ、ボンゴレビアンコとアヒージョ。食べてくれないか?さっきのことも含めて、感謝の気持ちを込めて作ったんだ。」


風花は少し驚いた表情を浮かべたが、すぐにいつもの冷静な顔に戻り、静かにうなずいた。


「ありがとうございます。ただ、護衛として当然の仕事をしたまでです。」


そう言いつつも、料理を手に取る風花の顔はどこか柔らかく見えた。


「いや、本当に助かった。俺一人じゃ対応しきれなかったし、視聴者を守るためにも、風花さんがいてくれて心強いよ。」


俺の言葉に、風花は少しだけ目を細めた。


「零様、いいえゼロ様が皆に愛されている証拠でしょう。それに応え続けるのは大変かもしれませんが、私もお手伝いします。」


「ありがとう。」


焚き火の光が揺れる中、俺たちはしばらく話し続けた。その静かな時間は、配信とはまた違う、穏やかな満足感に包まれていた。

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