零・逆転世界で配信者になる

黒猫亭

第1話 状況整理は何においても変えられず

ハッ!

目を覚ますと、様々な記憶が流れ込んでくる。前世でのこと、そして今世での記憶。


混乱する頭を抱えながら、零はゆっくりと起き上がった。目の前には見知らぬ天井と、やけに広々としたベッド。少し淀んだ空気。いつもの狭いワンルームではないことにすぐ気づいた。だが、それよりも何よりも、頭の中で響き渡る記憶の波が零を戸惑わせた。


「前世…今いるのは異世界で俺は、何を…?」


ぼんやりとした断片が組み合わさり、やがて一つの真実を形作る。零は過去、商社に入社しそこで出会った妻と結婚したが不慮の事故により妻は亡くなり零は独り身で細々と生きていた。そして、今――異世界にやってきたのだ。ここでは男女比が1対300。男性が希少で、特別な存在として扱われる世界だ。


「嘘だろ…どうなってるんだ…」


驚きと戸惑いの中、零はベッドの脇にある鏡を見つめた。映し出された自分の姿は、前世のそれと変わらない。それなのに、この感覚はなんとも不思議だ。前世の記憶を持ったまま、彼はこのオタクの幻想のような世界に転移してしまったのだ。


「つまり、俺は…この世界で生きていくってことか…」


零は自嘲気味に笑いながらも、少しずつ心を落ち着ける。前世での経験と知識があるのなら、今回はもっと巧みに立ち回れるはずだ。かつて営業などで磨いたトークスキルもある。


「よし…まずは状況を把握して、配信でも始めるか。」


逆転世界と言ったら配信だ。

オタクだと妻にバレないように、隠れながら読んでいた異世界で配信してキャーキャー言われる小説を基に考えを巡らす。

少しズレた決意を新たに、零は再びこの逆転した世界での新たな生活をスタートさせることを誓った。

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