断罪エンドを回避したら王の参謀で恋人になっていました 7
それからは散々だった。
唇が腫れるほどに口付けられて、さらには耳や首筋にも端正な唇が触れて吸って舐めて、あげく、噛まれた。それは痛くなるかならないかのギリギリで、いや、少しの痛みはあったかもしれないのに、なぜか甘いしびれさえあった。
信じられないことに、そのすべてに自分の身体は跳ねて我慢しきれずに、あらぬ声がもれた。とくに女性のようにふくよかでもないのに、真っ平らな胸にロシュフォールは頬をすりつけて、その長い巻き毛のくすぐったさと、それ以上のざわざわした感触に身をよじる。
「確認……します……けどっ!」
「なんだ?」
「あなた、やりかた分かっているんですか?御婦人ならともかく、私は男……」
「ああ、宮廷の噂話なんて、昼間からそんな話だし、それにそういう趣味の者達もいる」
「知識だけはあるぞ」なんて自慢げに言われてもだ。いくら中身は二十歳でも、十歳の姿の少年の前でそんなはしたない話をしていたのか。くされ貴族どもめ!と思う。
レティシアとて知識がないわけではないのだ。なにしろ王の愛妾として王宮にあがる前には、閨での作法なる本も読まされたが……。
本だけではわからないことがあるのだと、レティシアはこの一夜で思い知った。
翌朝、ベッドから起き上がれず「加減を考えてください!」と、にこにこ顔の相手に文句を言ったのはいうまでもない。
◇◆◇ ◆◇◆ ◇◆◇
一年後。
列柱が並ぶ回廊をレティシアは歩いていた。
青みがかった銀色の髪に、右目は凍える様な蒼の瞳。人形のように整った白い横顔。
左側は白いレースで縁取られた、繊細な眼帯に覆われていた。中心には翼ある獅子の王家の紋章に、王妃を現す白百合。顔に走る傷を完全に覆いかくすように、下向きの三角の先には、しずくの形の蒼い宝玉が光る。
この眼帯をロシュフォールから受け取ったときは少々複雑な気分になったものだ。まるで自分のものだとばかりに、王家の紋章を入れてさらには王妃の白百合など。
それでも王からの下賜品をつけないという選択はないので、レティシアはしぶしぶ使っていた。それだけで背後に若き金獅子王の威光が見えるのか、自分を若造の参謀と表面上侮るような者はいないから、助かっていると言えば助かっているが。
一年もたたないうちに飽きられて、王妃の部屋から退居できると思っていたのに、レティシアは未だ王宮住まいを続けている。さらにいうなら、新しい愛妾も、まして王妃も迎えられていない。
そして、向かったのは玉座の間につながる王の控えの間だ。先についていたロシュフォールの姿を見て、レティシアはふう……とため息ついた。
「なんだ?」
「どうして、私が王と一緒に他国の使節と謁見しなければならないのです?」
「お前は俺の参謀だろう?」
「他の大臣方ならば、すでに玉座の間にて使節の方々と共に並んでいらっしゃいますが?」
本来家臣の立場のレティシアもそうすべきなのだ。それなのにこの王は。
「行くぞ」
「はい」
先に立って歩き出す彼の長身の後ろをついていく。赤いマントをたなびかせた、金獅子のような王が玉座の間に現れる。さらにはその後ろから、対のような蒼銀の美しい狐の若き参謀の姿もだ。
五段の階(きざはし)をあがったその上に、黄金の玉座と、そして今世の王の世から、横に置かれたものがある。背もたれのない小さな椅子だ。
ロシュフォールが玉座に堂々と腰をおろし、続くレティシアがその横の椅子にしとやかに腰掛ける。
ひざまずく使節に顔をあげることが許され、謁見が始まった。
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