徳山君は年上が好き
本間和国
イケメン指導者
バンッ!
バンッ!
バンッ!
「反対!」
バンッ!
バンッ!
バンッ!
辺りを田んぼに囲まれた静かな町の一軒家から、ミットを蹴る音が響き渡る。
「ありがとうございましたー!」
「ありがとうございましたー!」
「はい。また明日ね。」
小学生達が元気よく挨拶をし、道場から出て行く。
館長の今枝敏夫は、子供達を外に出て見送る。
午後7時半。
辺りはすっかり暗くなり、保護者のお迎えの車で帰る子や、自転車で帰る子。様々だった。
ここは町では数少ないテコンドー道場。
館長の今枝敏夫の自宅の1階が道場になっている。
子供達が全員帰宅すると、入れ替わりで、「一般の部」の練習生が入ってくる。
「こんばんわ。」
「お願いします。」
一般の部は、基本、高校生以上。
現在通っているのは高校1年の男の子から、59歳の定年間近のオジサマまで、10代、20代の女性まで、様々な人が通っている。
今枝館長は壁にかかった時計を見る。
――7時40分か・・・そろそろ来るかな。
◇◇◇◇◇
田んぼのあぜ道を1人の女子高生がKーPOPを聴きながら鼻歌混じりに口ずさみながら自転車をこいでいると、
パンッ!!
突然大きな音がしたかと思うと、プシューと前輪がペタンコになってしまった。
「うそ!まじで!?」
彼女は、今枝の娘、
「ああ〜、仕方ないなぁ。歩いて帰るかぁ。」
珠羅が自転車を降り、ひいて歩いていると、大きなスーツケースと、スポーツバックを持ち、スマホを片手にキョロキョロしている背の高い男と遭遇した。
――ヤバい・・・変な人だったら怖いな・・さっさと追い越そう。
珠羅は下を見ながら早歩きで男を追い越そうとした。
「あ、すみません!」
ビクッ!!!
珠羅の体に力が入る。
「この辺に、『今枝会』ていうテコンドースクールありませんか?」
――はい?
「今枝会・・・ですか・・・?」
◇◇◇◇◇
「8時になったか・・・そろそろ始めるぞ。」
道場には10名の練習生が集まった。
日によってバラつきは、あるが、平均10名から15名の練習生が参加している。
――道に迷ってるのかな。
館長は、スマホを気にした。
「お父さん。お客さん。」
珠羅が道場の扉をカラカラと開けた。
「おお。珠羅。帰ったのか。」
その後ろには、キャップを深く被った高身長の男が立っている。
「おお、来たな。早く入って。奥に更衣室があるから、珠羅、案内してくれ。」
「はあい。どうぞ。」
珠羅と高身長の男は靴を脱ぎ、道場奥の畳3畳ほどの更衣室に案内した。
「ありがとうございます。」
高身長男は、キャップを取り、お礼を言う。
キュン――♡♡♡♡
珠羅は顔を隠して道場から自宅に続くドアを出た。
ドアを閉め、珠羅は呼吸を整える。
―――ヤバい!あの人、超カッコイイんだけど!!!
2階の自宅に繋がる階段を上がると、キッチンに出る。
ガラガラ
「ビックリした!珠羅、道場から入ってきたの!?どうしたの!?」
母の真見が食器を洗いながら驚く。
「帰りに、道場を探してる男の人に会ったから、案内してきたの。」
「ああ、お父さんから聞いてるわ。徳山君ね。今日から指導者として来てくれるって。」
「そうなんだぁ・・・」
珠羅は自分の部屋に入ると、制服を脱ぎ、部屋着に着替えた。
――指導者って事は、毎日来てくれるんだぁ。
ヤッパ!!彼女いるのかなぁ。年、何歳なんだろう。
時刻が9時を回ると、練習が終り、父親の館長が自宅に上がってきた。
珠羅はお風呂に入ろうと、部屋を出た。
「お疲れ様。どうだった?徳山君。」
「ああ、教え方が、丁寧ですごく良いよ。それに、あのビジュアルだと、女性の生徒が増えるかもしれん。」
「イケメンだもんねぇ。」
珠羅は父の話に聞き耳を立てながらお風呂場に向かった。
ガラガラ・・・
脱衣場を開けると上半身ムキムキの高身長男が道着を脱ごうとしていた。
「・◇$%!!!」
「うわっっ!!!」
珠羅は驚きのあまり、声も出ず固まっていると、高身長男は慌てて脱ぎかけたズボンをあげた。
「すっ、すみません!!!」
珠羅は慌ててドアを閉める。
「こ、こちらこそ、すみません。」
ドアの向こうから、高身長男が申し訳なさそうに謝った。
「徳山
「世衣君は、俺の友人の息子さんで、3月いっぱいまで航空自衛隊にいたんだが、任期満了して、別の事がやりたいと言って、次の仕事が決まるまで、うちで住み込みでテコンドー指導者として働いてもらう事にした。」
父はビールを飲みながらご機嫌な様子で話す。
「世衣君、遠慮しないでいいからね。こんなもので悪いけど、たくさん食べて。」
母もイケメン目の前に、嬉しそうだ。
世衣も、少し緊張した様子だが、美味しそうに、母の手作り春巻きを頬張り、ビールを飲んだ。
――マジか・・・こんなイケメンと・・・しばらく一緒に暮らすって・・♡
珠羅はリビングのソファから、ダイニングの世衣の姿をチラ見する。
明るい茶色のサラサラのマッシュヘア。
男の人とは思えないキメの整った白い肌。
少しタレきみの奥二重のスッキリした目、高い鼻。
そして、袖をまくったTシャツから伸びる筋肉質の太い腕・・・
――キャアーーー!!!
珠羅は顔が赤くなるのがバレないように、部屋に戻った。
翌朝の土曜日、珠羅は起きるとメガネをかけ、リビングへ向かった。
母はパートの仕事ですでに家を出ていた。
父はまだ寝ている。
珠羅は冷蔵庫から飲むヨーグルトを取り出す。
・・・そして、リビングと繋がった和室に視線を動かす。
和室の引き戸は、閉まったままだ。
――まだ・・・寝てるのかな・・・
スー
――え!?
和室の引き戸がゆっくり動いた。
――ヤバっ!!起きた?出てくる!?
珠羅は慌てて髪を手ぐしで整え、ダイニングチェアに座った。
「あ、おはようございます。」
低い声。
「お、おはようございます。」
世衣は、少し眠そうな顔でトイレに向かった。
しばらくすると、世衣は、珠羅の隣に座った。
「珠羅さん、昨日はどうもありがとうこざいました。きちんと、お礼も挨拶もできなくて、ずみません。」
「い、いえ、そんな事・・・」
珠羅は立ちあがった。
「トースト焼きますね。」
「ありがとうございます。」
食パンを2枚トースターに入れる。
「世衣さんは、コーヒーですか?」
「はい。ありがとうございます。」
珠羅はコーヒーを入れると、世衣の前に置いた。
「砂糖はお好みで。」
「はい。ありがとうございます。」
世衣はコーヒーに何も入れず口に運んだ。
――コーヒー・・・ブラックなんだ。カッコイイ♡♡♡
「あの、急に嫌ですよね。こんな知らない男が居候なんて。」
「へっ??」
「なるべく早く、住むとこ探して出て行きますんで。」
「だ、大丈夫です!出ていかなくても!!」
慌てて止める珠羅に、世衣は驚く。
「ありがとうございます。」
世衣は優しく微笑んだ。
ズドーン!!!
珠羅の心臓に大砲が撃ち込まれた。
――死んじゃう、死んじゃう♡♡そんな顔されたら♡♡
「世衣さん、いくつですか?」
「俺?21です。今年22になります。」
―――どストライク!!!
「あの、世衣さん、あの、あの・・・」
珠羅は顔を、爆発しそうなくらい赤らめる。
「あたしと、付き合ってください。」
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