第2話 バーガーのそれは許せない。

「君。一緒にいるのはお友達?」


 化粧室から出ると釣った男に声をかけられた。

 薬指に鎮座するくすんだプラチナ。ミントとコーヒーの混ざったすえたにおい。むしろ助かるくらいだ。考えていることが手に取るようにわかる。


「抜けられる? 話が聞こえてきたけど、あの子はあまりユーモラスなタイプじゃないよね」


 いい男だった。なのになぜか、突然、この世のすべてが嫌になり、どっと疲れが出た。気が緩んだせいで足の間を風太が伝う。最悪だ。ストッキングが台無しになった。


「食事はまだだよね? 出よう。実はもう、タクシーを待たせてるんだ。何が食べたい?」

「ハンバーガー。輪切りのパイナップルが入った」


 男が一瞬、きょとんとした。


「馬鹿ね。冗談に決まってるでしょ。あの子、親友なの。待たせると怒るから。ちゃお」


 テラスに戻るとミチコは伝票を取り上げ「下の子、発熱、保育園」と謎の呪文を吐き魔法のように街へ消えた。さっきの男がいつの間にか隣にいてニヤニヤしている。


 世の中馬鹿ばっかりだ。もちろんわたしもだ。


 飲みかけのワイングラスに白い月が浮かんでいる。それを見て、少し泣きそうになった。





 ◯


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