異世界転生した武蔵坊弁慶は刀剣蒐集癖(フェティシズム)をこじらせて、999本集めるまで帰りま1000

ハチシゲヨシイエ

第1話 弁慶、死す。

――殿は、見事に自害なされただろうか……。――-


激しい通り雨のように、百は優に超える数多の矢が降り注ぎ、オレの全身に突き刺さる。全身から血が噴き出す。


――いってえええええええええええ!!!!!!マジで殺す気だなオレを!弁慶だぞ!?オレ!天下の武蔵坊弁慶だぞ!?この一、二年で、殿と共にめっちゃくちゃ名前は知れてると思うんだけども!弁慶!知らねえのか!千年先も知られてる自信があるぜ俺は!――


目の前の400余りの兵士どもは、奥州藤原氏の面汚し、もとい恥さらしの藤原泰衡ふじわらのやすひら(藤原三代で一番バカだと思うわ、マジで。義理とか仁義とかない。生まれ変わっても殺したいこいつ)の命令で、俺の殿、九郎義経くろうよしつね様の首を狙っている。最初は500騎余りいたが、主おもにオレが中心となって100は殺した。だが、こっちは10数人のうち、生きているのは俺と殿だけ。


――いやいや、流石に死ぬだろ。オレも人だし。


なんでこうなったかというのも、うちの殿は、実の兄の鎌倉殿である征夷大将軍・源頼朝みなもとのよりとも(性格がブサイクだあの御方は)に謀反の疑いをかけられ、都落ちして奥州藤原氏が統治する平泉(※のちの岩手県平泉)に、オレたちと共に逃げてきた。かくまってくれてた秀衡ひでひら様(めっちゃいい人。生き様かっけー)が遺言で、義経を主君と仰いで奥州を治めよって言ってくれたときは一安心って感じだったが、泰衡の野郎、即裏切りやがって(あいつは生まれ変わっても殺すゼッタイ)。


――ああ、殿が自害なさったなら、オレはもういいんだが。されたかな自害?まだかな?流石に自害しててくれ。殿には悪いが、オレにも限界がある。ああ、気が遠くなってきた。いて、誰だ今、俺のスネこつんとやったやつ。いてえ、泣きてえ。


痛みに思わず片膝をつきそうになる。しかし踏ん張り、敵のゲスどもをしっかりにらみつける。ひるむ雑兵たち。一対一なら絶対に負けねえんだけどな。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」


オレの咆哮に思わず逃げだすやつもいる。ふらふらしやがる。が、倒れるわけには。


今度は槍が、四方から身体に突き刺さる。あふれんばかりに血が吹き出す。だが、決して倒れない。


――人生最初で最後の死に姿。情けなく死んじゃあ、後世の笑いもんだからな。見とけお前ら、おらぁ、仁王立ちして逝ってやらぁ。


のちの世にいう弁慶の立ち往生。つゆとも知らず武蔵坊弁慶、文治5年(1189年)6月、衣川の地で死す。


≪生まれ変わったら≫


血まみれの肉体から、魂が消える刹那、オレは魂のまま。




叫んだんだ。




≪刀1000本集めてえええええええええええええええええええええええ!!!!≫




「はぁ!?????????????????????????????」




俺の魂の叫びに遅れて、女の声がした。


**************************************


「あきれてものも言えないわさ」


真っ暗闇のなか、一点だけ光輝いたかと思うと、天女(?)と思われる美形の姉ちゃんが現れた。胸元がほぼ丸見え、太ももまるだし、尻もほぼそのままという、露出の激しい白の羽衣をまとい、色のない世界で宙に浮かんでいる。今の声は姉ちゃんのか。じゃあオレに話しかけてんのか。魂のまま浮かぶ俺に姉ちゃんが更に続ける。




「かっこいい死にざまで、主のために死んだかと思えば、刀を1000本集めたい!?ふざけてんの!?シリアスなギャグ!?全然面白くない!普通に泣きたいのこっちは!最後の最後に、感動していたあーしの涙も、すんっとひっこんだわよ!この刀剣蒐集癖しゅうしゅうへきの変態が!」


「トーケンシューシュ?なんだそりゃ?」


「刀集めんのが大好きな頭おかしいやつってことよ!」


「ちょ、おまっ!照れるわ!やめれやめれ!」


「褒めとらんわどあほ!」


姉ちゃんが霊魂のオレをはたいた。痛みはないがふっとばされる。


「おらぁ、死んだんだよな?こらぁ、どういう状況なんだ?」


「あーたはいま、魂だけの状態。何もしなければいずれ消滅する。ただし」


「オレには輪廻転生りんねてんせいする機会があるってわけだ」


「え!よくわかったじゃないの!」


「伊達に比叡山で生臭坊主はやってねえのよ。どこだい、畜生道か?餓鬼道かい?流石に地獄は勘弁だぜ」


「異世界よ」


「……は?」


「ゴブリンやドラゴン、スライムにエルフ、何でもありの魔法と剣の世界、異世界よ」


「それは何道だ?」


「行ってからのお楽しみ。涙はひっこんだけど、これであーし、結構あんたが好きでね。あんたの望みをかなえてあげる」


「何道?」


「うっさいわさ!第二の人生、せいぜい楽しむことだわさ」


「第二の人生、異世界……」


「異世界であんたは、様々な困難に直面する。そして七難八苦を乗り越えるたびに、あーたはその手に刀を納めていく」


「遠回しな言い方はよしてくれ、異世界とやらでオレは何をするんだ姉ちゃん?」


「女神に姉ちゃんなんて失礼だからおよしなさいや」


「女神?はぁ~どおりでべっぴんだと思った」


「ちょ///うっさいわいな刀剣マニア!あーしは、再生の女神・デメテル」


「再生の女神・デメテル」


女神・デメテルがオレに巻物をほうった。目の前で巻物の結びが解かれ、そこに記された文字が目に入る。




八尺之大太刀


剛柔自在剣


獅子王百獣剣


悪霊憑依剣


巨人殺戮剣


雷神霹靂槍


八岐大蛇腹剣


黒槍


鋼鉄神龍戟


神殺鑓


鉄棍双剣


青龍剣


白虎爪


朱雀鉄扇


玄武鉄甲


冥界刃


暗黒鎌


魔神鉄杖


焔炎灰塵剣


幽冥鉄鞭


魔眼之槍


怨霊憑きの弓


奪腑之死叢剣


地ならしの矛


氷護剣


闇魔弓


紫炎戯れの槍


人間無骨


奈落双剣


破軍の斧


霧隠刃


天魔の杖


暗黒舞踊剣


苦霊爺剣


幽鬼纏う鎖鎌


狂神酒浸しの槍


悪断刀


灼熱蜥蜴之鎌


幻影獣牙剣


闇魔獄卒槍


霧影の神弓


妖星の狂剣


魔獣の鉄爪


魔炎の手斧


共喰いの槍


髑髏剣


黒炎の断槍


妖刀煌牙


百鬼破斧


魔獣の鉄棍


幻影紳士の槍


邪眼師の銃剣


鎌鼬之鉤爪


冥界暗黒槍


漆黒の毒刀


狂嵐の妖弓


血みどろの朱槍


番犬の冥斧


殺人狂の影刃


無間地獄の剣


妖魔紅蓮槍


黒曜の冥鎌


堕天使の狂剣


幻想の幽炎刀


白の暗器


雷鳴の魔弾槍


朧月夜の麗剣


不惑幻砕槌


魔嵐の狂鎚


鉄喰


呪詛の冥蛇剣


魔牙の龍槍


狂気の黒翼刀


封魔の月槍


夢幻鉄扇


豹頭の打刀


邪神黒曜円


風神の長刀


冥王の鉄棒


枯れずの剣


血つかずの槍


酩酊の錫杖


烏刀


まだまだすんげー沢山書かれているが、こいつぁ、まさか。無意識に頬がゆるみ、笑みがこぼれた。


「刀の名前か?」


「ご名答。いいかい弁慶。あーたに、再生の女神・デメテルの名において天命を与える。異世界の大陸に眠る、999本の刀剣を集めなさい。其方そなたは異世界の刀剣を蒐集し、異世界を救うんだわさ!!!!!!」


女神の口上と共に、オレの魂は七色の光を放ち、空の彼方へ打ちあがり、異世界へと送られた。


「それまでここに、帰ってくるんじゃないよ」

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