暑い日には車の下で涼もうか

夜海野 零蘭(やみの れいら)

暑い日には車の下で涼もうか

「今日も暑いなぁ」


フリーターの山村奈央は、暑さにうなされながらも自転車でアルバイト先に向かう。彼女を見送るのは、お隣の猫のマーロンだ。


「マーロン、それはうちの車よ。」


三毛猫のマーロンは、奈央の家や近所の軒下、自家用車の下で涼む姿が度々目撃されている。マーロンの飼い主・伊藤さん一家は、3世代家族で特に家族仲が悪いわけではない。マーロンは猫だから、マイペースに動いている。


隣の家から、伊藤さん宅の老婦人が孫の見送りをしている声が聞こえた。孫が元気にどこかへ出かけると、伊藤婦人はこちらを向いた。


「おはようございます、山村さん。マーロン、またそちらにいたのね」


「おはようございます。いいえ、大丈夫ですよ」


「マーロン、またお邪魔しっちゃって。家に猫缶があるから、戻っておいで」


婦人がそう声を掛けると、マーロンは帰宅していった。こんなマイペースな猫ではあるが、マーロンは近所から人気のある猫だった。


そんなあるとき「マーロンの姿が見えなくなった」と、伊藤さんが話してきた。いつもいる車の下を探しても、どこにも見つからないのだ。

奈央のアルバイト先のスーパーにも、貼り紙をして捜索協力を願い出た。


マーロンの行方は、奈央のアルバイト先『スーパーみなみ』の店長も気にかけてくれた。


「山村さん、例の猫ちゃん見つかった?」


「いいえ。近所でも通勤する道でも探しているのですが…この暑さだから不安です」


「私もどうにかこうにか探してみるよ。ひどい暑さだし、早く見つけないとね」


スーパーの駐車場にある車の下や、猫の好きそうな路地裏など、ありとあらゆる場所を探したが見つからなかった。


―マーロンの捜索をしてから1週間後


回覧板を届けに来た伊藤さんと奈央が話していると、伊藤さんのスマートフォンが鳴った。


「はい、伊藤です。え…そうですか、ありがとうございます。今すぐ行きます!」


「伊藤さん、どうかなさいましたか?」


「山村さん、マーロンが見つかったの!なんとスーパーみなみで」


奈央は驚いた。まさか自分のアルバイト先にいたとは…


現場へ向かうと、店長がマーロンを猫用のケージに入れて、猫まんまとお水をあげていた。


「店長!こちら飼い主の伊藤さんです」


「店長さん…マーロンを見つけてくださり、ありがとうございます。マーロンはどこにいたのでしょうか?」


店長は少し笑いながら、こう話を続けた。


「なんと、今朝私の夫の車の下で涼んでいました。夫は近所の野良猫と勘違いして、家にある猫のエサをあげようとしていましたが。いや、驚きました」


奈央と伊藤さんの家、店長夫妻の家、そしてスーパーみなみは確かに猫でも行ける範囲内だ。まさかそこにいるなど、思いにもよらなかった。


「やっぱりこの子は、車の下で涼むのが好きみたいね。さあ、お家に帰ろうか」


「これからは、私の家でもマーロンのお水を用意しておきますね」


マーロンの気まぐれさに、みんな思わず笑顔になる夏の日だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

暑い日には車の下で涼もうか 夜海野 零蘭(やみの れいら) @yamino_reila1104

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ