ブラック企業勤めの私が転職活動したら、転職エージェントになってしかも年収1000万円になった話
@lovevaation
第1話 プロローグ 私がブラック企業に入った日
日本でも有数のドラマ制作会社、大黒堂。やや古びた銀座のビルの最上階で、私、最上川由芽はこれから最終面接に臨む。重厚感ある扉をひとつ挟んだ先が面接会場で、今面接している学生が終われば、私の番になる。リクルートスーツはピッタリしすぎていて着心地が悪い。まるで、私がスーツを着て働くのが本当に合っていないと言われているかのようだ。
「大丈夫。今日内定をもらったら、スーツを着ないから」
と、後ろから声をかけられる。
振り向くと、人事の丸尾絢子が緊張をほぐそうとするように笑っている。丸尾は同い年くらいの童顔に見えるが、実は30歳近いらしい。髪の毛は低めのお団子にまとめている。ブラックヘアに見えるが、実は後れ毛の一部に金色のメッシュが見えるのを私は見逃していない。社会人になってもインナーカラーを楽しめているのが、まさに大黒堂で働く社員の自由さを体現しているようで、やはり憧れる。
大黒堂のHPには「好きを仕事に!」というキャッチコピーが書かれており、過去に大黒堂が制作したヒットドラマの主人公のセリフが散りばめられている。「仕事をやり切った後のビールはサイコー!」「泣きながらご飯を食べた日は、私を強くした」そんなわざとらしい漫画風な吹き出しに合わせてポーズをとるように掲載されている社員は、ドラマを企画したり、PRしたり、TV局に販売したり、誰もがやりがいを持っていきいきとクリエイティブに働いている様子が伺えた。
目の前の、大きな茶色い扉。役員会議室と書かれているこの会議室は、3次面接までは待合室として使っていたので、とても広い部屋だということはわかる。丸尾は「どうしたの?」と顔を覗き込んできた。
「最終面接には会長、社長、そのほか取締役がずらっと10人並んでいるから、ちょっと怖いかも」
と、丸尾は言った。
そして、とても大切そうに付け加えた。
「会長を一言でも笑わせたら内定が取れるよ」
学生向けの就職サイトに載っている与太話だと思っていたが、まさか人事までそんなことを言うと思っていなかった。私が目をまんまるにしたのを気づいてか、
「あ、でも、こんなことを言ったせいで、会長がうんともすんとも笑わずにいて焦ってパニックになっちゃった子がいるから、気にしないで」
と、丸尾は焦って言った。
扉が開き、10分前に入室した男子学生が出てくる。心なしか青白い顔をしている。「それでは次の人」と中から声がかかる。私は「よし!」と顔をパッと叩いた。そして、丸尾に振り向き「行ってきます!」と敬礼した。
扉のノックは3回。扉を開けると、だだっ広い会議室の真ん中に椅子が一個ポツンと置いてある。その前に、10人の怖いおじさんたちが並んでいる。真ん中に座っているのが、大黒堂の名物会長、大黒雄三である。HPで何度も目にしたのだから、見覚えがある。芸能界のドンと言われており、凄みのある顔をしている。いつも仏頂面でーーと、あれ?彼が、笑ってる??
「さっき行ってきますと言ったのは、君の声か?」
大黒雄三が口を開いた。
「は、はい!」
私は変に声が上ずる。
「変わった子だね」
と言って、会長が微笑んだ。すると、周りのおじさんたちが何やら一斉にテーブルの上の資料にペンを動かす。「決まった」と思った。
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