ひみよし
沼津平成
プロローグ
「速報です……」2024年となんら変わっていない光景だが、カレンダーは2038年のものをかけている。
2038年、科学の進歩が今までの何分の一にも落ちていた。
今日の夕食は天かす入りうどんに、そのうどんの出しにお麩を加えた味噌汁である。
「
続いて液晶画面に映し出されたのは、三十代半ばと見られる背の高い髭が少ない男の屈託のない笑顔。
「切るぞ」照れ臭さも何もないような、同じ部屋の寮生、唯がいった。
「てか、この寮室三人いるんだぜ? せめて確認取れよ」
と遥は答えておいた。
唯一発行されている新聞社の新聞のテレビ番組の予定を見ると、コンプライアンス番組が五歳の時より増えてるなぁって、遥はしみじみ思った。
はるか、ゆい、と女のような名前だなぁで済ませられる時代ではなくなっている。それは遥自身も薄々勘づいてはいたが、逆に自分たちをこのような名前にした両親のやけくそ心を考えると笑ったらいいのか、羨ましいと妬めばいいのか、よくわからなくなる。
「だから確認取ってんじゃねえか。切るぞ」
「まってって」
「伸びるぞ」心配した口調で唯がきいた。そういえば、唯も翔太と同じで背が高い。
「翔太氏が手がける『ゆうフォン』が業界シェア率二十六%をこえました」「『ゆうフォン』の株式会社u特別会見が開かれました」
どの局も同じニュースをやっている。
「検索と体験を融合させた、TaiKensaku(体検索)」
ある局でアナウンサーがこういっていた。どの局アナも似たような声だから、
「新橋トウキチと新田薫ってどうちがうんだ?」
と唯がぼやくのもおかしくはないと思うのだが、最近これが口癖になってしまっているように遥には思える。
「いま、『どうちがうんだ』はやめとけよ」
と念を押した。
それにしても、だ。
遥には気になることがあった。
「たいけんさく、か……」
その言葉に、「味噌汁」を啜っていた唯は味噌汁をおいた。コト、と音がする。
「なに、やってみたいの」
「……うん」その質問に気圧されて、遥は答えた。少し胸のつかえがとれたような気がした。
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