インド編 第1章:運命の風が吹く時
1.戦火の予兆
日が沈みかける夕暮れの中、アルジュン・シン中尉は基地の小さな休憩室で、一息ついていた。古いテレビが端に置かれ、そのスクリーンには今、中国の混乱した様子が映し出されていた。韓国と北朝鮮の軍が協力して中国を支援するという、信じられないニュースが流れている。
「…中国軍はガルムの群れに対して苦戦を強いられているようです。」アナウンサーの落ち着いた声が響く。
アルジュンは画面に目を凝らしながら、何とも言えない感情に包まれていた。彼の脳裏には幼い頃に聞いた戦士達の伝説、そして滅びの運命が迫るラグナロクの神話がよぎる。だが、今目の前にあるのは現実の戦争だ。
「まさか、神話が現実になるなんて…」アルジュンは手元のカップに目を落とし、冷めた紅茶を一口含んだ。どこか苦い味がした。
2.兄弟の絆
その時、部屋のドアが開き、ラフル・シン大尉が入ってきた。彼はインド空軍のエースパイロットであり、アルジュンの兄だった。ラフルの顔にはいつも通りの冷静さがあったが、目には不安の色が見え隠れしていた。
「アルジュン、準備はできているか?」ラフルは淡々と問いかけたが、その声にはどこか重みがあった。
「勿論だよ、兄さん。」アルジュンは兄の姿を見て微笑みながらも、その心には言い知れぬ緊張が走っていた。
彼らはいつも一緒に戦ってきたが、今回の敵はこれまでのどの敵とも違う。ナグルファル、空飛ぶ死者の船がインドに接近してきているという報告が、彼らの胸を締め付ける。
「気を抜くな。今回は、これまでの敵とは違う…」ラフルの言葉が、その場に静寂をもたらした。
3. 運命の始まり
その夜、基地全体に警報が鳴り響いた。空を覆う黒雲の中、ナグルファルが現れたのだ。船の甲板には無数のアンデッドが立ち並び、その目には冷たい光が宿っていた。巨人ヨトゥンもまた船の奥から次々と姿を現し、地上へと降り立ち始めた。
「ここからが本番だな…」アルジュンは自らに言い聞かせるように呟き、装備を手に取った。
その頃、ラフルは既にSu-30MKIのコックピットに座り、エンジンを始動させていた。彼の目の前には、ナグルファルから飛び立つ羽付きのアンデッドが映っていた。その圧倒的な数に、彼の心臓は高鳴りを抑えきれなかったが、彼は冷静さを保ち続けた。
「アルジュン、無事でいろよ…」ラフルは心の中で弟の無事を願い、戦闘に向けて機体を上昇させた。
4.アルジュンの戦場
アルジュン・シン中尉は、インド陸軍の先遣隊と共にナグルファルが迫る地域へと急行していた。彼の乗る装甲車が、岩だらけの道を揺れながら進む中、彼は窓の外に広がる光景に目を凝らした。遠くの空には、巨大な黒いシルエットが不気味に浮かんでいる。ナグルファルだ。その巨大な船体は、まるで空そのものを切り裂くかのようにして進んでいた。
「接近中の敵に備えろ!」上官の声が響き渡ると、部隊全体に緊張が走った。
アルジュンは自分のAK-203をしっかりと握りしめ、これから始まるであろう戦闘に備えた。彼の頭には、兄ラフルの事が何度もよぎっていた。今頃、彼は空でアンデッドやヨトゥンの群れと対峙しているのだろう。
「ラフル兄さん、無事でいてくれ…」アルジュンは小さく呟いた。
車列が市街地に近づくと、突如として上空に影が差し込んだ。見上げると、ナグルファルから無数のアンデッドが降下してきているのが見えた。羽付きのアンデッドは、まるで猛禽類のように急降下し、地上にいる兵士達に襲いかかる。
「迎撃しろ!撃て!」アルジュンは叫び、仲間達と共に自動小銃を構え、迫り来る敵を撃ち始めた。
空中を飛び交う弾丸が、アンデッドの中を貫いていく。だが、敵の数は圧倒的だ。次から次へと新たな敵が降り立ち、部隊を取り囲むかのように迫ってくる。
「これがラグナロクの恐怖か…」アルジュンは冷や汗をかきながら、次々と敵を撃ち抜いていった。
空には死者の船が漂い、地上にはアンデッドと巨人ヨトゥンの群れが迫りくる中、彼ら兄弟がこの未曾有の危機にどう立ち向かうのか、その物語が今、始まろうとしていた。
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