中国編 第4章:戦いの余韻

1.静寂の中で


ウェイが意識を取り戻した時、彼の耳に入ったのは静寂だった。先ほどまで轟音が響き渡っていた戦場は、まるで時が止まったかのように静まり返っていた。彼はぼんやりとした意識の中で、自分がまだ生きていることを確認した。身体中が痛み、動かすのも辛かったが、それでも彼はゆっくりと身を起こした。


目の前には、巨大ガルムの倒れた姿があった。その巨体はまるで山のように横たわり、もう動くことはなかった。ウェイはその姿を見つめながら、ようやく終わったのだという実感が湧き上がった。


「終わったんだ…」彼は自分に言い聞かせるように呟いた。だが、勝利の喜びよりも、むしろ喪失感が胸を満たしていた。多くの仲間達がこの戦いで命を落とした。彼らの犠牲が、この勝利をもたらしたのだという現実をウェイは痛感していた。


2.家族の記憶


ウェイは無線機を手に取り、状況を報告する為にチャンネルを合わせた。しかし、手が震えてしまい、うまく操作できない。彼は苛立ちながらも、無理に力を入れずに、少し落ち着くことにした。


その瞬間、彼の頭に浮かんだのは、妻のファンと娘のシアンの事だった。彼らが安全であることを確認するまで、彼には休む余裕などない。ウェイは痛む身体を引きずりながら立ち上がり、無線機に向かって話しかけた。


「こちら、リ・ウェイ…任務完了。ガルム…全滅。」彼の声はかすれていたが、明確に伝わった。しばらくの沈黙の後、無線から仲間の声が返ってきた。


「よくやった、リ・ウェイ。我々も無事だ。お前のおかげで、この地域は守られた。」


その言葉に、ウェイは少しだけ安心した。しかし、彼の心の中ではまだ何かが引っかかっていた。彼は無線機を握りしめたまま、目を閉じて深呼吸した。これまでの戦いが頭の中を駆け巡り、彼を苦しめる。


3.幻覚の後遺症


ウェイはふと、先ほどの幻覚を思い出した。将軍の姿が脳裏に蘇り、彼の言葉が再び耳に響く。あの幻覚が彼をどれほど支えてくれたかを思い出すと同時に、それがただの幻だったという現実がウェイの心を重くさせた。


「幻覚に頼って生き延びるなんて…」ウェイは自嘲気味に呟いたが、その言葉には一抹の感謝の念も含まれていた。彼はあの幻覚がなければ、自分はここにいなかったかもしれないと思ったのだ。


それでも、ウェイは心の中で自分を奮い立たせた。これからは幻覚ではなく、現実を見据えて生きていかなければならない。そして、家族を守り抜く事が、彼にとって何よりも大切な使命である。


4.戦いの続き


ウェイがようやく無線を切り、戦場を後にしようとしたその時、彼の目に新たな動きが映った。倒れた巨大ガルムの近くで、何かが動いていたのだ。彼は警戒しながらその方向に向かった。


そこには、ガルムの子供達がいた。大人のガルムに比べて遥かに小さく、攻撃的な様子は見られなかったが、その目には不気味な光が宿っていた。ウェイは一瞬ためらったが、再び銃を構えた。


「ここで終わらせる。」彼は小さく呟き、トリガーに指をかけた。だが、その時、無線から仲間の声が響いた。


「リ・ウェイ、引き上げろ。戦闘は終わった。無駄な犠牲を出すな。」


ウェイはその言葉に迷いを感じながらも、銃を下ろした。ガルムの子供達は、彼を見上げるようにしてじっとしていた。その姿を見たウェイは何かを悟ったかのように、静かにその場を後にした。


「これで終わりじゃない…まだ、戦いは続くんだ。」


ウェイはその言葉を胸に刻み、家族の元へと帰る決意を固めた。戦いは終わったが、彼の心の中では、まだ何かが始まろうとしているのを感じていた。それは、彼自身の戦いでもあった。


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